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vol.10 トヨタ・ミライのような燃料電池車(FC車)・水素自動車が普及しない課題

岡崎五朗の知ってトクする最新クルマ事情

「燃料電池車なんて馬鹿げてる。」これはイーロン・マスク氏の言葉です。EVで名を馳せたテスラ社CEOとしてのポジショントークなのか、それとも本当に燃料電池に未来はないのか。まずは燃料電池とは何なのか、というところから解説を始めましょう。

燃料電池はアポロ13号やスペースシャトルでも使われていた

その呼び名から電池の一種と思われがちな燃料電池ですが、実はちょっと違っていて、実際は水素と酸素を使った「発電装置」です。バッテリーは充電が不可欠であるのに対し、燃料電池は燃料(水素と酸素)が供給される限り発電し続けます。

初の実用化は1965年にアメリカが打ち上げた有人宇宙船、ジェミニ5号。映画化され有名になったアポロ13号やスペースシャトルでも燃料電池が使われていました。なぜ宇宙船に燃料電池なのかといえば、水素と酸素さえ充填すればいつまでも発電を続け、なおかつ反応の結果生まれる水を飲料水として使えるなど、好都合なことが多かったからです。

燃料電池はアポロ13号やスペースシャトルでも使われていた 燃料電池はアポロ13号やスペースシャトルでも使われていた

宇宙には酸素がないので水素と酸素の両方を持っていくことが必要ですが、空気中の酸素を使える地上なら、水素さえ確保できれば発電できることになります。また、時間がかかる充電とは違い、水素の充填はガソリンとほぼ同じ時間ででき、しかもEVと同じく走っている間で二酸化炭素を排出することはありません。燃料電池車(FC車)や水素自動車が夢のクルマといわれる理由はここにあります。

燃料電池車(FC車)に立ちはだかるコストを乗り越えた、トヨタ・ミライの快挙

しかし、膨大な予算が投入される宇宙船とは違い、クルマとなるとコストの概念なくしては成り立ちません。また、ユニットの重量とサイズをクルマに搭載できるレベルにすることも困難を極めました。90年代の初期の試作車などは、商用バンの荷室すべてが水素ボンベと燃料電池システムで埋め尽くされるような代物で、人や荷物を運ぶためのクルマではなく、「燃料電池を運ぶためのクルマ」のようなものだったのです。

それでもエンジニアの奮闘によってなんとか実用的なサイズまで小型化することに成功しましたが、コストの問題は最後まで残りました。90年代終わりに、ある自動車メーカーのトップに燃料電池車の価格について聞いたところ、「3億200万円といったところかな」と冗談交じりのコメントが返ってきたことがあります。つまり、ボディは200万円で、燃料電池関連が3億円ということです。

そう考えると、2014年に登場した世界初の市販燃料電池車であるトヨタ・ミライの凄さがわかります。乗用車のボディに燃料電池を収め、それを723.6万円という価格で市販したのは快挙と言っていいでしょう。

燃料電池車(FC車)の最大のアドバンテージは「クイックチャージ性」

とはいえ、バッテリーの高性能や低コスト化によってEVが長足の進歩を遂げるなか、果たして燃料電池車(FC車)・水素自動車に未来はあるのでしょうか。冒頭で書いたイーロン・マスク氏以外にも、燃料電池車に懐疑的な人はたくさんいます。その論点は主に効率で、水素を生成、運搬、貯蔵、充填してクルマを走らせるよりも、バッテリーに蓄えた電気で走らせるほうがトータルとしての二酸化炭素排出量は少ないという主張です。もちろん、電気にもいろいろな発電方法がありますし、水素にもいろいろな生成方法がありますが、EVのほうがトータルとしてのエネルギー効率で優れているのは間違いないようです。

EVと燃料電池車、エネルギー効率は?充電時間は? EVと燃料電池車、エネルギー効率は?充電時間は?

しかし、商品とは効率だけで成り立っているものではない、というのも大切な論点です。EVの1充電あたりの航続距離が400〜500kmに達しつつある今、燃料電池車の最大のアドバンテージはクイックチャージ性です。ミライの航続距離は650kmですが、ほぼカラの状態から満タンにするのにかかる時間はわずか3分と、ガソリン車と変わりません。

それに対し、EVは高速充電器を使ったとしても、満充電にするには30分〜1時間が必要です。(2018年4月執筆現在)つまり、仮に充電器が空いていたとしても最低で30分。1台待っていれば1時間、2台待っていたら走り出すまでに1時間半かかるわけです。お盆や正月の帰省ラッシュのことを考えると気が重くなります。ましてや、ディーゼル問題の反動でEVに積極的に取り組んでいるドイツでは、アウトバーンを超高速で走る人が多い。けれどもEVで160km/hとか180km/hで巡航したら、大容量バッテリーを積んでいるモデルでも1時間半程度で継ぎ足し充電が必要になるでしょう。90分走って30分充電、また90分走って30分充電など、どう考えても非現実的です。

使い勝手のよさは燃料電池車。3分で水素を充電してすぐに走り出せる 使い勝手のよさは燃料電池車。3分で水素を充電してすぐに走り出せる

その点、燃料電池車なら3分で水素充電してまたすぐに走り出せます。効率だけでなく、こうした「使い勝手」を考慮に入れれば、燃料電池車を馬鹿げていると切り捨てることがいかにナンセンスかがわかるのではないでしょうか。とくに、一定のルートを走る大型トラックやバスなどは、燃料電池のメリットをもっとも享受できるはずです。

水素ステーションの普及や整備には補助金が必須か

もちろん、課題は山積しています。まず、水素ステーションがまだまだ少ないこと。現在稼働している商用水素ステーションは22都府県の92カ所のみ。7000基を超える急速充電器と比べるとその違いは圧倒的です。今後増やしていく計画はありますが、水素ステーション建設には4〜5億円(一般的なガソリンスタンドは約1億円)かかり、なおかつ走っている燃料電池車が少ないため、国の補助金がなければビジネスとして成り立たないのが実態です。市場原理に乗らなければ、水素ステーションの普及や、持続的な展開は不可能でしょう。

しかし、だからといって誰も取り組まなければ何も始まりません。ミライの開発責任者の方がこんなことを言っていました。「ミライは、草原に咲いたたった1本の花なのです。そこに蜜蜂がやってきて、蜜を吸い、花粉を運び、やがて多くの花が咲く。ミライには、そんな存在になって欲しいと願っています」。そう、たとえ少数ではあっても、燃料電池車がメーカーの実験室から外に出て、一般ユーザーの手に渡り、路上を日常的に走るという事実が発信するメッセージに、強いインパクトがあるのです。

水素社会の広がりと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のようなミライ

事実、水素関連のビジネスは広がりを見せてきています。今後再生可能エネルギーは間違いなく増えていきますが、太陽光発電や風力発電の弱点は、気候によって発電量が大幅に変動すること。平準化するため据え置き型の超大型バッテリーに電気を一時的に貯めておく案も出ていますが、コスト的に厳しいものがあります。

そこで有望視されているのが水素です。地球上に無尽蔵にある水を電気分解して水素として蓄えておけば、そのまま燃料として使うもよし、再び電気に変えてもよしと、便利に使えます。他にも、火力発電に使うと二酸化炭素を大量に排出してしまう褐炭から水素を取り出し、二酸化炭素を固形化する技術や、下水汚泥から発生するメタンから水素を生成する技術も確立されつつあります。空こそ飛べませんが、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のゴミで走るデロリアンのような世界がまさに現実のものになりつつあるのです。

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアンのようなクルマが現実に! 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアンのようなクルマが現実に!

もちろん、こうした流れが現実として機能し始めるまでには、乗り越えなければならない壁がいくつもあります。そのなかには世界規模の法整備やインフラ整備も含まれます。そしてそこには補助金として税金が投入されていることを忘れてはいけません。いまわれわれに求められているのは、納税者として燃料電池車(FC車)・水素自動車、ひいては水素社会の普及活動が適正に行われているかに関心を寄せることなのではないでしょうか。もちろん、ミライや、今後発売されるであろう他社の燃料電池車を購入して、この壮大な実験に参加するのも素敵なことだと思います。

※ 本記事は著者個人の見解・意見によるものです。

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※1 大手損害保険会社(3社)から切替えた当社ご契約者アンケートより算出。(回答数:1,829件/集計期間:2018年1月-2018年8月)お客さまの申告による、加入中の保険会社から提示された継続保険料と当社契約保険料の差額であり、当社商品・補償内容が前契約保険会社と異なるケースも含まれます。

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