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「クマ出没」の多発は森林環境からのメッセージ? 研究者と考える、人と野生動物の共存

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近年、多くの都道府県の人里でクマの出没が相次ぎ、人身被害にまつわる報道も増えています。2023年にクマ類による人身被害は219人と、統計開始以来過去最多を記録しました。そして2025年も、10月末までにすでに196人の被害が報告されており、2023年と同じ、もしくはそれを上回るペースで被害が増加しています※1

その背景には、「個体数の増加」「温暖化による山の食料不足」「過疎化による人の気配の減少」といった複合的な要因があると考えられています。まだ解き明かされていない部分も多いクマの生態ですが、その行動変容には人間の活動や環境の変化による影響も見られます。クマの冬眠と繁殖に関する研究の第一人者である北海道大学の坪田敏男教授に、クマの出没が多発している背景や人との共存のために必要な視点を教えていただきました。

※1 出典:環境省「クマ類による人身被害について [速報値]

INDEX

北海道大学大学院獣医学研究科教授/北海道大学総合博物館 館長

坪田敏男

1961年、大阪府出身。1983年、北海道大学獣医学部卒業、1988年、北海道大学大学院獣医学研究科博士課程修了。2007年より北海道大学大学院獣医学研究科(現在、研究院)教授。クマの冬眠と繁殖の関係を中心に研究を行う。

北海道・本州で増加するクマ。一方で地球温暖化によって減る餌

―まず、現在の日本におけるクマの生息状況について教えてください。

坪田
:北海道にヒグマ、本州にツキノワグマが生息しています。かつては九州にもツキノワグマがいましたが、1940年代から1950年代の間に絶滅してしまいました。ただ、この原因がどこにあるのかはまだ詳しくわかっていません。じつは、クマのように野生動物のなかでも大型の動物の研究をする人はそれほど多くなく、その生態についてはまだ不明な点も多いんです。

個体数については、一時期は減少していましたが、いまは増加傾向にあります。2020年時点のデータ※2では、北海道のヒグマの推定個体数は約11,700頭とされていて、これは30年前と比べて2倍以上です。本州のツキノワグマは3万頭以上いると推定されていて、全体的には増加していると思われます。

※2 出典:農林水産省「クマ類(ヒグマ・ツキノワグマ)の生息及び被害状況

―てっきり、クマは減少しているかと思ったのですが、増加しているんですね。

坪田:狩猟が行われなくなったことで、増加していると考えられます。北海道を例にすると、1990年まで「春グマ駆除制度」というものがあり、駆除が容易な冬眠から覚めたばかりのクマを捕獲していました。

しかし、「このままでは絶滅に向かうのではないか」という懸念から、当時の知事が政策を転換し保護政策に切り替えました。春グマ駆除が廃止されてからは、通常の狩猟期間でクマを捕るのは困難なため、捕獲数が減って個体数が回復してきました。

―地球温暖化などの気候変動によって、苦しい状況にある野生動物も多いかと思いますが、クマはどうでしょうか?

坪田:気候変動の影響についてはまだ研究が進んでおらず、見えていない部分が多いのが現状です。ただし、現在進行形で気候変動が進んでいるので、これから10年、20年とかけてデータが取れてくるかと思います。

間違いなくいえるのは、地球温暖化の影響でサケ・マスの遡上量が減少していること※3。いくつかの原因が考えられますが、少なくとも海水温が上がると、日本沿岸が彼らにとって過ごしにくい環境になり、遡上する川に近づけなくなってしまいます。その結果、川まで戻ってこられる数が減っているのです。たとえばカラフトマスは8月下旬から9月にかけて、特にヒグマにとっては大事な餌になるので、この資源量の減少はヒグマにとっても痛手となっているはずです。

また、夏場にクマが食べるセリ科の草本植物(幹や枝を持たず、柔らかな茎を持つ植物)についても影響が考えられます。温暖化により草の成長が早まって硬くなり、クマが好む柔らかくてみずみずしい状態の期間が短くなっている可能性があります。これによって食べたい餌が足りなくなっている可能性は大いにあると思います。

※3国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産資源研究所 さけます部門 資源増殖部「2025(令和7)年さけます来遊状況(第2報)」を参考

北海道と本州のサケ河川捕獲数と、日本近海(日本海側・太平洋側)の海面水温平年差分布図。サケの捕獲数は本州では如実に、北海道でも十数年単位で見ると確実に減少傾向にあり、それは海面水温の上昇とある程度の相関関係にあるとみられる(「海面水温の長期変化傾向(日本近海)」参考)

北海道と本州のサケ河川捕獲数と、日本近海(日本海側・太平洋側)の海面水温平年差分布図。サケの捕獲数は本州では如実に、北海道でも十数年単位で見ると確実に減少傾向にあり、それは海面水温の上昇とある程度の相関関係にあるとみられる(「海面水温の長期変化傾向(日本近海)」参考)

クマが人里に出没する要因は、人口減少と過疎化も影響している?

―2023年4月から12月には本州で23,669件のクマの出没が記録され、これは2009年以降最多だそうですね※4。クマが人里に出没する事例が増えているのも、個体数の増加や餌不足によるものなのでしょうか?

坪田:もちろんそれらも大きな要因といえますが、もう一つの要因としては、人口減少や過疎化によるクマの分布域の拡大が挙げられます。いわゆる里山と呼ばれる場所から人がどんどん撤退し、過疎化が進むことで、そこに野生鳥獣が入り込んできているんです。

日本の里山には、薪などに用いられていたコナラやミズナラといったドングリをつける木が放置されています。クマにとっては餌場となり、そこに侵入してきているため、クマの分布域が拡大傾向にあります。

クマの食べ物の8割から9割は植物です。特にこれからの時期は冬眠に備えて体脂肪をたっぷり蓄える必要があり、そのときの餌が主にドングリなどの木の実や果実なんです。しかし、これらの植物には豊作の年と凶作の年があります。豊作の年は山のなかで生活を完結できますが、凶作の年は山のなかに餌が少ないため、餌を探している間に人里に出てきてしまうのです。

※4 出典:環境省「クマ類の生息状況、被害状況等について」4ページ目

―つまり、人の気配がなく、餌がありそうな場所に分布域を広げているということですね。しかし、住宅街でクマが目撃されたというニュースも増えている気がします。街中にまで出てきてしまうクマはどういったクマなのでしょうか。

坪田:たしかに、市街地や住宅街で目撃される事例も出てきていますね。分布域が拡大しているので、市街地の周辺の山にもクマは生息していると思います。

ただ、分布域が拡大したといっても通常ならクマは山のなかにいて、市街地に出てきてしまうことは稀です。彼らも出てきたくて出てきているというよりは、餌を探して迷っているうちに間違って出てきてしまったという状況と予想できます。

クマはテリトリーを持たない動物だと考えられていますが、クマ間での強い・弱いはあります。強いクマが山のなかにある一番良い場所にいて、親子グマや若いクマなどの弱いクマが仕方なく行動圏を広げ、街中にまで出てきてしまっているのかもしれません。

一方で、もはや人を怖がらず、堂々と餌を食べにくるクマも出てきています。2019年には札幌市であるクマが、家庭菜園のとうもろこしをむしゃむしゃと食べる光景が見られました。パトカーが来ても人が来ても平気でとうもろこしを食べ続けていて、人馴れによって完全に行動が変容したクマでした。こういったクマは残念ながら駆除するしかありません。

―クマが人里に現れることで、最も大きく問題視されているのは、どういった点でしょうか?

坪田:やはり人身被害が発生することです。イノシシやシカと違い、クマは人身事故を起こしてしまうことがあります。

クマはもともと食肉類だったところから、進化を経て草食に近い雑食となりました。しかし、いまでもほかの獲物をハンティングする習性を持っています。やたらに人を襲うわけではありませんが、場合によっては人を襲うこともあるのです。また、先ほどのお話のように街中に出てきてしまった場合、普段と違う環境でパニックに陥って、人を襲ってしまうケースもあります。

こういった事件が増えることで、人々のクマに対する恐怖心が助長され、どうしてもネガティブな考え方に向かってしまうのも残念なことだと思います。

「害獣」ではなく、共存する生き物としてクマを扱うために

―クマを「害獣」としないために、人とクマはどのように関わるのが理想的でしょうか?

坪田:人とクマが共存できる状態が理想ですね。共存というのは、同じ場所でクマと人が一緒に生きるということではありません。すでに起きているように、人の居住地にクマが出てきてしまうと家庭菜園を荒らされ、人身被害が起こる可能性も高まります。

重要なのは、そうした「害獣」になってしまうクマを増やさないよう、人間側がさまざまな手立てをしていくことです。本来クマは山のなかで暮らしている限り、害獣ではなく豊かな森林環境を代表する重要な野生動物です。

しかし、居住地にクマが出てしまったら、残念ながら駆除するしかありません。一度行動が変容したクマを元に戻すのはほとんど不可能だからです。だからそもそもクマが人里に出にくいような対策を作ることも必要です。

クマの生息する森林環境をちゃんと保全したりすることで、彼らと人間が棲み分けでき、互いが幸せに生きていけるはず。それこそが共存のあり方だと思います。

クマだって、人を襲おうと思って人里に出てきているわけではないので、管理さえしっかりやれば人とクマの共存は十分実現できるはずです。すでにこういった対策を実施している自治体もあるんですよ。

―自治体による対策というとどんなことでしょうか?

坪田:各地域に専門家を配置して、普段から森林の保全に力を入れたり、クマが人里に出没してしまった際の駆除体制を築いたりすることです。また、一般市民に対する教育活動なども含まれます。

坪田:具体的には島根県、兵庫県、長野県などは先進的な取組みをしているので、ほかの地域にも参考にしていただき、さらに各地で対策が進むと良いなと思います。

―クマとの共存のために、個人レベルでできることはありますか?

坪田:クマがどういう動物なのか、クマが暮らせる場所とはどんな場所なのか、もっというと自然の仕組みや環境に関心を持つことから始めてもらいたいです。クマは人を襲うというイメージが強くなっているかもしれませんが、本来は、クマは人を避ける動物です。

例えば、山に入る際には鈴を鳴らしたり手を叩いたりなど、人間の存在を知らせてクマとの遭遇を避ける行動が重要です。こういったことを知っているだけでも、関わり方が変わるのではないでしょうか。

また、環境保全の観点からも植林活動に参加したり不要となった果樹を伐採したりもそうですし、もっと小さなところから「山でゴミを捨てない」といった当たり前のアクションを徹底することが大切です。クマが一方的に人里に降りてきていると思うのではなく、人の行動がクマの行動変容に影響を与えていることも意識するのが大事です。

A-251001-04

取材・執筆:白鳥菜都  編集:森谷美穂、玉野井崚太(CINRA, Inc) 

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