食品の大量廃棄はなぜ起こってしまうのか。消費者庁の推計によると、日本の⾷品ロスは年間460万t以上。それにより排出される温室効果ガスは1,050万t-CO2※注にもなるとされています。
そんな食品ロスの一例として、毎年社会問題になるのが節分の日に売れ残る「恵方巻き」の大量廃棄です。食品ロスジャーナリストの井出留美さんは、2019年から毎年、節分の日のコンビニを回って恵方巻きの売れ残り本数を調査してきました。
ここでは恵方巻きを例に、食品ロス問題の構造と、私たちが個人でできる対応についてお話をうかがいました。
※注:「t-CO2」は、温室効果ガスの排出量を二酸化炭素に換算して表す単位
世界で排出される温室効果ガスの8%が食品ロス由来
—そもそも、食品ロスは気候変動とどのように関わっているのでしょうか?
井出:食品ロスを含む生ごみは、日本ではその多くが他のごみと一緒に集められ、
焼却処分され、CO2を排出しています。特に生ごみは重さの80%以上が水分のため、焼却の際にはより多くのエネルギーが必要となり、CO2の排出量も多くなります。
⽇本の⾷品ロス量の推計値は、2023
年度で464万t。それによる温室効果ガス排出量は1,050万t-CO2にもなるとされています。これは、家庭で使用される冷房による排出量よりも多いんです※1。
※1参照:2023(令和5)年度「食品ロスによる経済損失及び温室効果ガス排出量の推計結果」(消費者庁)
2023(令和5)年度「食品ロスによる経済損失及び温室効果ガス排出量の推計結果」(消費者庁)をもとに編集部で作成
—焼却しなければ、温室効果ガスは発生しないのでしょうか?
井出:アメリカなど他の国では、食品ロスを含む生ごみは埋め立てられていますが、そうすると今度はCO2の28倍以上温室効果のあるメタンを排出します。つまり、食品ロスは燃やしても埋め立てても温室効果ガスを排出し、気候変動に影響を与えてしまうんですよ。
—排出される温室効果ガスのうち、食品ロスによるものはどのくらいの割合になるのでしょうか?
井出:やや古いデータになりますが、環境NPOの世界資源研究所(WRI)がまとめた2011〜2012年のデータを見ると、世界中で排出される温室効果ガスのうち、食品ロスによるものは約8.2%で、飛行機から排出される約1.4%よりもずっと多い割合です※2。
「What’s Food Loss and Waste Got to Do with Climate Change? A Lot, Actually.」(世界資源研究所)をもとに編集部で作成
また、国連環境計画(UNEP)の2024年のレポートでも、温室効果ガス排出量の8〜10%を、食品ロスと食料廃棄物によるものが占めるとされています※3。
FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によると、世界では食料生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されており※4、その量は年々増加傾向にあります。このように、食品ロスは気候変動に直結している深刻な問題なんです。
※2参照:「What’s Food Loss and Waste Got to Do with Climate Change? A Lot, Actually.」(世界資源研究所)
※3参照:「World squanders over 1 billion meals a day - UN report」(国連環境計画)
※4参照:「Global Food Losses and Food Waste」(国際連合食糧農業機関)
コンビニの恵方巻き大量廃棄がなかなか減らない理由
—井出さんは毎年、節分の日に大手コンビニを回り、恵方巻きの売れ残り調査をされていますね。昨年の実態を教えてください。
井出:2025年は大手コンビニエンスストア加盟店149店舗を対象に、21時〜25時のあいだに残っている恵方巻きの本数を計測しました。
その結果、合計で1,674本、金額にして917,605円の売れ残りがありました。これを全国のコンビニ店舗数に当てはめると、約3億円の損失が出ていた計算になります※5。
※5参照:井出留美「2025恵方巻廃棄の損失はコンビニだけで推計3億円超 2019年からの7年間で捨てる量は変わったか」(Yahoo!ニュース)
日本フードエコロジーセンターに納入された恵方巻(写真提供:日本フードエコロジーセンター)
—クリスマスケーキやおせち料理、うなぎなど、他にも季節商品はあると思いますが、恵方巻きはとりわけ大量廃棄が注目される印象があります。なぜなのでしょうか?
井出:クリスマスケーキやおせち料理は高価なため、予約販売が徹底されていますし、冷凍保存して流通できる商品も多いので、相対的に廃棄量が少なく済みます。一方で、恵方巻きは単価が安く冷凍もできないため、特にコンビニでは「たくさん作ってその日に売れなければ廃棄」というやり方が根深く残ってしまっている店舗もあるんです。
食品廃棄物から豚の飼料を作る事業を展開している「日本フードエコロジーセンター」のデータによれば※6、同センターに納入される恵方巻きの量は、2019年10月に施行された食品ロス削減推進法の影響もあり、少しずつ減少してきています。そのこと自体はいい傾向ですが、問題の根本解決には至っていないのが現状です。
※6参照:井出留美氏が日本エコロジーセンター高橋巧一社長から毎年提供されている独自のデータによる
—「特にコンビニでは」とのことですが、スーパーなど他の小売店とはどのような違いがあるのでしょうか?
井出:スーパーは店内で調理しているため、客の入り数や在庫を見ながらある程度調理量を調整することができます。一方、コンビニはあらかじめ量を決めて納入するため、実態にあわせて後から量を調整しにくく、売れ残りが発生しやすいんです。
—恵方巻きに限らず、一年を通して食品ロスを減らすために、食品業界として取り組むべき課題はなんだと思いますか?
井出:やはり製造業者は「作りすぎない」、小売業者は「売りすぎない」がいちばんだと思います。それがもっとも資源とコストの削減になりますから。
ただ、食品業界における商慣習で、小売業者から製造業者に対して課せられる独自ルールのなかには、「作りすぎ」につながるものも多くあります。たとえば、製造業者が小売業者に対して商品を納期通りに納品できなかった場合に、違約金などが課される「欠品ペナルティ」などです。
2025年5月には公正取引委員会が、こうした一部の商慣習が独占禁止法に違反する恐れがあると発表しました。業界があらためて、現状を改善していく必要性を認識する契機になったと思います。
買い物リストや“てまえどり”で食品ロスを減らそう
—では、私たち一人ひとりが消費者としてできる、食品ロス削減へのアクションはありますか?
井出:まずは「買いすぎない」ことがいちばんですね。消費者が「買いすぎない」というアクションを起こすことで、製造業者の「作りすぎ」、小売業者の「売りすぎ」を抑制することにもつながると思います。
そのためには「買い物の前に家の在庫をチェックする」「買い物リストを作る」「空腹で買い物に行かない」ことが肝心です。小さなことに見えますが、空腹時に買い物をすると最大で64%も買い物金額が増えてしまうともいわれているんですよ※7。
また、買い物では商品を手前から取る「てまえどり」をおすすめします。
売り場には、賞味期限の近いものから順に並べられていますから、手前のものが売れ残ると廃棄せざるを得なくなり、その処理には税金も使われることになるんです。たとえば東京都世田谷区では、小売店の売れ残りを含む「事業系一般廃棄物」の処理に、1kgあたり65円の税金が使われています※8。
※7参照:米国ミネソタ大学のアリソン・ジンシュー博士の研究による
※8参照:「資源・ごみ処理経費」(世田谷区)
—食べ物を燃やすのに、私たちが納めた税金が使われると考えると、なんだか虚しいですね。
井出:そうですね。食品ロスは、その処理に税金が使われるだけではなく、捨てられることになった食べ物を作るのにかかったお金やエネルギーもすべて無駄になり、大きな経済損失を生み出しています。
この金額は日本では、1年あたり約4兆円※9。言い換えると、この損失が教育や医療、福祉など社会におけるさまざまなチャンスを奪っているともいえるのです。
※9参照:2023(令和5)年度「食品ロスによる経済損失及び温室効果ガス排出量の推計結果」(消費者庁)
—他に、家庭での食品ロスを減らすためにできることはありますか?
井出:さまざまな調査では、家庭でもっともロスになっている食品は「野菜」であるとの結果が出ています。できるだけ長くおいしく食べるために、市販の野菜保存袋を使うのもおすすめですね。
それから、食品に表示されている賞味期限も、じつは「それを過ぎたらすぐに破棄しなければならない」という期限ではありません。たとえば、卵に記載されている賞味期限は、「気温25度の環境で常温保存した場合に、生食できる期限」。つまり、冷蔵保存したり火を通したりすれば、もっと長く食べられることになります。
このように、正しい知識を身につけながら、食品を無駄にしない消費の仕方ができるようになるといいですね。
DSR-1687
井出 留美
奈良女子大学家政学部食物学科(現・生活環境学部食物栄養学科)卒業。博士(栄養学)、修士(農学)。ライオン、JICA海外協力隊、日本ケロッグを経て、東日本大震災の食料支援で大量廃棄に衝撃を受けた経験から(株)office3.11を設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。主な著書に『私たちは何を捨てているのか』『食料危機』『賞味期限のウソ』『SDGs時代の食べ方』など多数。食品ロスを全国的に注目させたとして、食生活ジャーナリスト大賞食文化部門、食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞などを受賞。
取材・執筆:原里実 編集:福田裕介(CINRA, Inc)