気候変動の“いま”がわかるウェブマガジン
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佐々木俊尚が登山で感じる気候変動。備えるべきアウトドア用品と自然の楽しみ方を綴る

春でも雪が残り、寒暖差の激しい高山でも、梅雨が明けると気候が安定して過ごしやすくなります。夏は登山のベストシーズン。木々に覆われた山道は平地よりも涼しく、気持ちのよい体験ができるでしょう。

しかし昨今では、気候変動の影響で山も酷暑や豪雨に見舞われるように。今回は、文筆家であり登山を愛する佐々木俊尚さんに、自然環境の変化やアウトドアを楽しむための備えについてコラムを綴っていただきました。

これからもアウトドアレジャーが続けられるよう、私たちは自然とどのように向き合うべきなのでしょうか。

INDEX

文筆家、情報キュレーター

佐々木俊尚

1961年兵庫県生まれ。毎日新聞で記者として12年間働き、月刊アスキー編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。学生時代から山登りを趣味とし、東日本大震災を機に東京、長野(軽井沢)、福井での三拠点生活を開始。2025年4月には『歩くを楽しむ、自然を味わう フラット登山』を出版。頂上を目指さず、「歩くこと」そのものを楽しむ新しい登山のかたちを提唱している。

日本が「二季」の国に? 失われつつある春と秋

四季のなだらかな移り変わりというものが、近年はだんだんと感じにくくなっている。

猛暑の夏がようやく終わったと思ったら、急激に寒くなる。冬が終わったとたんに汗ばむほどの陽気がやってくる。梅雨が明ければ信じられないほどに暑くなり、近所に買い物へ出るだけでも汗だくになって体力を削り取られる。

「四季ではなく、日本はもはや二季の国では」と自嘲気味に言う人がいて、まったくそのとおりだと感じた。春と秋はいったいどこに行ってしまったのか、と感じることが実際多いのだ。ファッション好きな私の妻も「昔とくらべると、春物と秋物を着る機会が減ってしまっている。たくさん持っているのにもったいない」とよく口にしている。

これはアウトドアに出ても、同じことを感じる。私は登山が好きで、毎月二回は山道を歩く。この十年ぐらいは高い山の頂を目指すことよりも、森の中や湿原、湖畔など気持ちの良いフラットな道を歩くことを好み、新著の『フラット登山』(かんき出版)という本でも頂上を目指さない新しい山歩きを提唱している。

昨年の秋、茨城県南東部にある霞ヶ浦の湖畔を歩いた。霞ヶ浦は、琵琶湖に次いで日本で二番目に大きい湖である。

湖畔には、環境省などが整備する自然歩道が設定されていて、広々とした眺めを楽しみながら歩いていくことができる。このコースを計画した理由は、初冬にさしかかった11月中旬なら、晴れ空の下を気持ち良く歩けるだろうと考えたからだ。

ところが史上最高に暑くなったといわれた昨年の猛暑は、11月になってもまだ関東平野に影響力を維持していた。朝早くに歩き出したころはまだ寒く、ダウンジャケットを着込むほどだったのが、お昼近くになって日が高く昇ると猛烈に暑くなり、ダウンどころか薄い風よけのジャケットも脱ぎ、長袖のTシャツ一枚になってもまだ暑い。もう初冬だというのに、汗だくになりながら歩くはめになった。

登山の定説「梅雨明け一週間は晴れ」が通用しない昨今

近年は予測できない気候が本当に多い。盛夏は登山の黄金シーズンで、「梅雨明け一週間は晴れ」がかつては定説だった。関東甲信越なら7月20日前後の梅雨明けを待って登山者たちは南北アルプスや八ヶ岳を目指し、抜けるような青空に鋭角なラインを際だたせる頂上への道をたどり、夏山を堪能した。

しかし気候変動の影響か、もはや「梅雨明け一週間」は過去の話となった。梅雨が明けても雨が続いたり、梅雨が明けないうちから猛暑の夏になってしまったり、年によっては梅雨明けさえはっきりしないといったことが当たり前になってしまった。

さらに南北アルプスのような3,000m級の高峰でも、猛暑の影響を受けて非常に暑くなってきている。特に北アルプスの稜線(山の峰から峰へと続く線)は以前から水場に乏しいことから、登山時の飲料水をどう確保するのかという新たな問題も浮上してきている。

昔は夕立というと、夏の暑さを忘れさせてくれる気持ち良いとおり雨だった。しかし最近は「ゲリラ豪雨」という恐ろしい名前に進化している。線状降水帯という耳慣れない用語も登場してきた。台風も大型になることが多く、各地で水害が多発する時代になった。

気候変動に備えて楽しむためのアウトドア用品5つ

このような気候変動のなかでもアウトドアを楽しむためには、どのような対策が必要だろうか。

最も大事なことは、どんな天候にも対応できるよう登山装備をきちんと整えておくことだ。ここでは最低限、携行しておきたいアウトドア用品を紹介する。

1.防寒・防風にもなる「レインウェア」

レインウェアは昔、「雨がっぱ」と呼ばれ、ゴワゴワと重くただひたすら雨を防ぐだけのものが多かったが、最近は非常に高性能な製品が多数登場している。

ゴアテックスに代表されるように防水かつ透湿性を持つだけでなく、ストレッチ性能が高くて手足を動かしやすい素材のものも増えている。雨のときだけでなく、防寒や暴風のジャケットとしても兼用できるようになってきている。

わたしが現在愛用しているのは、アウトドアブランド・ミレーのティフォンというレインウェアのシリーズだ。耐水性が非常に高いのにもかかわらず、ストレッチが利いており軽くて着心地が驚くほど良い。

2.両手が自由に使える「ヘッドランプ」

ヘッドランプとは、伸縮性のあるバンドで頭部に固定できる小型の照明。登山はできるだけ両手をフリーにしておくことが基本なので、暗い道を歩く際、手持ちの懐中電灯やスマホ照明ではなく、ヘッドランプを携行したい。

3.冷たい飲料を携帯するための「保冷ボトル」

猛暑の季節には、飲料水をたくさん用意するのは当然のことだ。コースに「水場」があるか事前に確認しておくのは良いが、気候の変化で水場が涸れてしまっていることも多い。念のため携行しておくほうが安全だ。

ただ、必要な水分量は個人差が激しいので、慣れないうちは多めに持参し「自分はどのぐらいの水が必要だ」と、アウトドア活動を重ねながら徐々に測っていくことを勧めたい。

また暑い季節に歩く気持ちを奮い立たせるためには、冷たい飲料も用意したい。最近は保冷ボトルが2,000円台ぐらいから購入できるので、これにスポーツドリンクやクエン酸系の飲料(※)を冷やしておく。私のおすすめはクエン酸で、酸っぱさが疲れた身体に最高に心地良い。

※:保冷ボトルによっては酸性の飲み物を入れておくとボトルの金属が溶け出すものもあるため、購入をする際にはご確認ください。

※:保冷ボトルによっては酸性の飲み物を入れておくとボトルの金属が溶け出すものもあるため、購入をする際にはご確認ください。

4.脱水症状を防ぐ「塩タブレット」

水とスポーツドリンクだけでなく、「塩」も忘れないでほしい。夏山でバテて水を大量に飲んでいる人がいるが、脱水症状になると、水をいくら飲んでも渇きを癒やせなくなる。そういうときはたいてい、塩分が足りていないのである。大量の汗をかいて、身体から塩分も排出してしまっているからだ。

そこで携行してほしいのが、塩タブレットである。これは甘いキャンディではなく、純粋な塩を錠剤のかたちに固めただけのものだ。そのぶん、即効性がある。

歩き始め、ほどよく汗が噴き出してきたら、1錠0.5gほどの塩タブレットを3、4錠ほど水で流し込む。しょっぱいので、決してガリガリ噛んだり舌の上で溶かしたりしてはならない。この儀式を最初にやっておくと、汗を大量にかいても、水さえ定期的に摂取していれば脱水にならずにすむ。

5.清涼感が得られる「ハッカ油スプレー」

突然起こる天気の変化。水害に巻き込まれないためには?

先にも書いたように、近年は各地で水害が多発している。斜面が崩れるなどして登山道が寸断されてしまうことも頻繁に起きている。そのため山に入る前は、天気の情報を調べておくことが必須になっている。

事前に現地の天気予報を確認するのは当然だが、情報テクノロジーを駆使すればもう少し精巧に水害に対処できる。すぐやるべきは、雨雲を地図上で目視できるアプリをスマホに導入しておくこと。

歩いている途中で雲行きが怪しくなってきたら、いつ雨が降るのかリアルタイムで把握する。アプリによっては雨量の強さも色分けされているので、ゲリラ豪雨が近づいていたら即座に下山する判断が重要である。このように二重三重の備えをし、豪雨や猛暑に対応しなければならない。

加えて、もうひとつ大事なことがある。気候変動を防ぐために「アウトドア好きには何ができるか」ということをつねに念頭に置いておく、ということだ。

私は著書『フラット登山』で、富士山や北アルプスのような3,000m級の有名山岳に行くことだけが登山の悦びではないと書いた。電車に乗って、都市近郊の川べりを歩いたり、緑にあふれた公園と公園をつないで長い距離を歩いてみたり。そんなコースでも、十分に自然を楽しめる。「道を踏みしめて歩く」という登山特有の楽しみを実感できるのだ。

高峰の雄大な自然はもちろん大切な人類の財産だが、同時に足もとの身近な自然環境も決して忘れてはならない。身近なところから自然を見つめ直そう。

文:佐々木俊尚  編集:森谷美穂(CINRA, Inc)