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線状降水帯の名付け親に聞く!集中豪雨の増加リスクと日常からの備え

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近年、梅雨の時期を中心に猛威を振るう「線状降水帯」と呼ばれる局地的な集中豪雨。時に甚大な被害をもたらす大雨はなぜ発生し、なぜピンポイントでの予測が難しいのでしょうか?

本記事では、大雨が激甚化するメカニズムや予測技術の現状に迫るとともに、私たちの命を守るために不可欠な日頃の備えや気象情報の活用法について、「線状降水帯」の名付け親である気象庁 気象大学校教授の加藤輝之さんにお話を伺いました。

INDEX

集中豪雨の発生回数は45年間で3.8倍も増加

──近年、梅雨から台風の時期にかけて、甚大な被害をもたらす集中豪雨が毎年のように発生しているように感じます。気象庁の観測データでも、梅雨が激甚化している傾向は見られるのでしょうか?

加藤:間違いなく大雨は増加しています。約45年間分の気象庁のアメダスデータを解析した結果、3時間で130mmを超えるような「集中豪雨」の発生回数は日本全国で年間に約2.2倍、7月に限ると約3.8倍に増加していることがわかりました※1。その集中豪雨の約3分の2が線状降水帯によるものです。

——「線状降水帯」というワードをニュースなどで耳にする機会も増えましたが、具体的にどのような現象ですか?

加藤:気象庁の定義では、「概ね3時間で150mm以上の雨が降り、降水域の長さと幅の比率が2.5以上ある広範囲の線状のシステム」を指します※2

実は、激しい雨や雷を起こす積乱雲の一つひとつの寿命は1時間程度と短く、実際に雨を降らせるのはその半分程度の時間しかありません。しかし、風上側の同じ場所で次々と新たな積乱雲が繰り返し発生し、それが風下に連なっていくことで線状の降水域を形成します。これが同じ地域に数時間にもわたって猛烈な雨を降らせ続ける「線状降水帯」の正体です。

——線状降水帯は、とりわけ西日本で梅雨の時期に多く発生するそうですが、その理由は何でしょうか。

加藤:大雨の「燃料」となるのは、大気中の大量の水蒸気です。梅雨前線の南側では、太平洋高気圧の西の縁を回って、九州では東シナ海を経由した大気下層の「非常に湿った空気」が日本列島へ流れ込みます。夏場の夕立と違い、梅雨期や台風の周辺ではこの水蒸気を運ぶ強い風が吹き続けるため、積乱雲への燃料供給が途絶えません。

特に九州など西日本は水蒸気の通り道になりやすく、上空も湿っているため持ち上げられた水蒸気が蒸発せずにそのまま大雨となって落ちてきます。つまり、線状降水帯が発生しやすい環境が整っているのです。

——線状降水帯の発生が増加していることと、気候変動(地球温暖化)との関連はありますか?

加藤:気温が上がると、大気中に含むことのできる水蒸気量は増加します。単に水蒸気が1.1倍になると雨も1.1倍になるという単純なものではなく、降水への変換エネルギーは指数関数的に増大します。このことは、近年の極端な大雨の発生しやすさに直結していると考えられます。

今後は、これまで発生が少なかった東北地方などでもリスクが高まるほか、発生時期が秋深くまで延びる可能性も指摘されています。

線状降水帯の発生予測が難しい3つの理由

——線状降水帯の発生位置をピンポイントで予測することは困難と言われていますが、どうしてでしょうか?

加藤:予測を阻む大きな壁が3つあります。1つ目は予測モデルの解像度の限界です。10〜20km規模の小さい積乱雲を正確に再現するには、非常に細かい解像度の気象予測モデルが必要ですが、これには天文学的な計算機能力が求められます。

2つ目は海上観測データの不足です。大雨をもたらす水蒸気は海面付近から供給されますが、海上には観測網が手薄なため、シミュレーションの前提となる正確なデータを揃えることが困難です。現在は観測船や航空機を用いた集中観測でメカニズム解明を進めています。

3つ目はパターンの複雑さです。単純に積乱雲が連なるわかりやすい現象だけでなく、複数の降水システムが重なったり地形の影響を受けたりと、発生パターンが多岐にわたるためです。

2014年8月20日に広島で発生した線状降水帯における、3時間の積算降水量分布

2014年8月20日に広島で発生した線状降水帯における、3時間の積算降水量分布

——予測精度向上のためのアプローチは進んでいるのでしょうか。

加藤:初期値をわずかに変えた複数のシミュレーションを同時に走らせて、結果のばらつきを見る「アンサンブル予報」という手法を活用しています。

少し条件をずらしても同じ場所で大雨の予測が出れば確度は高く、逆に予測がバラバラになれば不確実性が高いということになります。ピンポイントの特定は難しくても、「九州の北部で発生確率が高い」といった大まかな危険度を知らせることは可能になってきています。

大雨から命を守るために普段から情報収集を

——集中豪雨に対して、私たちが取るべき対策や心構えを教えてください。

加藤:まずはお住まいの地域のハザードマップを確認し、川の氾濫や土砂災害のリスクを把握してください。

これまで雨があまり降らなかった地域だからといって、油断は禁物。こうした地域は下水道などの排水能力が低いことが多く、少しの大雨でも河川が氾濫したり、都市部で内水氾濫が起きたりするリスクがあるため注意が必要です。

——毎日の天気予報だけでなく、気象庁の気象情報をチェックする習慣を身につけることも大事でしょうか?

加藤:そうですね。たとえば、「線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけ」が出た場合は、大雨になる可能性が高い状況です。大雨警報や、土砂災害・洪水の危険度を色分けで示す「キキクル(危険度分布)」などの情報もうまく活用いただきたいと思います。

大事なのは特別なときだけでなく、普段から気象情報に触れる習慣をつけること。日常的に雨雲レーダーを見て「雨が降りそうだから洗濯物を取り込もう」といった習慣を持っておけば、いざというときの防災情報にも敏感になって、自然と避難行動に結びつけることができるはずです。

気候変動についても同じです。線状降水帯の発生の増加は、地球温暖化によって大気中の水蒸気量が増加していることが一因。まずはその事実を知り、身近な自分ごととして捉えることが気候変動対策の第一歩だと思います。

DSR-4750

加藤輝之

気象庁 気象大学校 教授。「線状降水帯」の名付け親であり、その定義づけや発生メカニズムの解明に深く関わる。大雨の発生条件や予測精度向上に向けた研究を牽引している。著書に『集中豪雨と線状降水帯』(朝倉書店)など。

※1:一般財団法人消防防災科学センター.“集中豪雨をもたらす線状降水帯について”.季刊「消防防災の科学」No.156 2024.春季号. 令和6年5月20日,(2006年4月27日).
※2:
気象庁.“線状降水帯に関する各種情報”.気象庁ホームページ,(2006年4月27日).

構成・執筆:榎並紀行(やじろべえ)  編集:福田裕介(CINRA, Inc) 

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