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サンゴが減ると生態系はどう変わる? 気候変動と海の未来を考える

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「海の熱帯雨林」とも呼ばれるサンゴ礁。海洋生物の約4分の1の種が暮らしているともいわれ、豊かな生態系が広がっています。しかし近年、気候変動による海水温上昇によって、サンゴの白化や減少が世界各地で深刻化しています。

サンゴの変化は、海の生態系だけでなく、漁業や沿岸環境など、私たちの暮らしに直結する大きな問題です。見えない海のなかで進行する危機から、豊かな自然と私たちの生活を守るために、いま何が必要なのでしょうか? 東海大学海洋学部の中村雅子教授に、サンゴを取り巻く現状と、私たちにできるアクションについてうかがいました。

INDEX

サンゴの白化は海の異変を知らせるサイン?

─気候変動に伴い海水温が上昇すると、なぜサンゴは白化するのでしょうか?

中村:そもそもサンゴが動物であることはご存じでしょうか。サンゴはクラゲやイソギンチャクと同じ刺胞動物(しほうどうぶつ)の仲間で、「ポリプ」と呼ばれる小さな個体が集まって形成された群体性の動物です(1つのポリプからなる単体性のサンゴもいます)。サンゴは石灰質の骨格をもち、木の枝やテーブル、ドーム状など立体的な構造に成長します。小さなポリプと呼ばれる個体が集まってサンゴの骨格やほかの石灰化生物の殻などが長い時間をかけて堆積されてできた地形されたが「サンゴ礁」です。

サンゴは触手を使って小さなプランクトンなどを食べます。しかし、生きるのに必要なエネルギーの多くは、体内に共生する褐虫藻(かっちゅうそう)という植物プランクトンの光合成に依存しています。サンゴは褐虫藻に安全なすみかや光合成に必要なものを提供し、サンゴは褐虫藻からエネルギーなどをもらうという、互いに利益のある共生関係が成り立っています。しかし、海水温が30℃を超える状態が続くと、褐虫藻の働きが弱まり、このバランスが崩れてしまいます。

その結果、体内の褐虫藻の密度が低くなり、透明なサンゴの組織を透かして、白い骨格が見えることで、サンゴ自体が白く見えます。この状態が「白化」です。白化の状態が続くとサンゴは栄養不足になり、最終的には死んでしまいます。

特に深刻なのは、高水温による白化が広い海域で一斉に起こること。日本でも2024年、沖縄から静岡までの広範囲で大規模な白化が確認されました。

奥が完全に白化したサンゴ。手前は白化しつつある色が薄くなったサンゴ(画像提供:中村雅子教授)

奥が完全に白化したサンゴ。手前は白化しつつある色が薄くなったサンゴ(画像提供:中村雅子教授)

─海水温の上昇以外にも、サンゴが減少する原因はありますか。

中村:サンゴの減少には、沿岸部の開発や埋め立てのように、人間活動が直接的に関わっている場合もあります。こうした場合、サンゴ礁そのものが失われるケースもあります。その場にいたサンゴを別の場所に移植するといった努力も行われていますが、すべてが成功するわけではありません。

また、近年は海洋プラスチック問題も、海洋生態系における深刻な環境問題として調査研究が進んでいます。サンゴがマイクロプラスチック(直径5mm以下のプラスチック)を取り込むことで、成長が阻害されたり、白化が促進されたりすることが実験でもわかってきています※1

─一方、静岡県などの黒潮流域では、サンゴの分布域が北上し、種類や量が増加しているそうですね。

中村:静岡県沿岸にはもともと温帯性のサンゴが生息していました。しかし、冬の海水温が上昇したことで、黒潮に乗って南方から流れてきたサンゴの幼生が、静岡周辺でも越冬できるようになりました。その結果、熱帯・亜熱帯性のサンゴが北上し、新たな種類が確認されるケースも増えています。私は魚類については素人ですが、南方性の魚類でも越冬、定着が増えつつあるそうです。

ただ、この変化は、単純に「サンゴが増えて良い」という話ではありません。これまで海藻が広がっていた場所にサンゴが定着すると、生態系のバランスが変化してしまうからです。例えば、大型の海藻が減る「磯焼け」が起こった場所にサンゴが進出すれば、海藻を食べる貝類や、ウニなどの棘皮動物(きょくひどうぶつ)の数にも影響が出てしまいます。

サンゴ減少の影響は、私たちの暮らしにも

─サンゴが減少すると、サンゴ礁に暮らす生き物にはどのような影響があるのでしょうか。

中村:サンゴ礁の海は澄んでいて、サンゴや色とりどりの魚類などがおり、美しく豊かな海に見えます。でも、海水が澄んでいるということは、水中にプランクトンなど浮遊しているものが少なく、いわゆる「貧栄養」の環境なのです。サンゴは、褐虫藻から得たエネルギーの一部を粘液として体外に放出し、それが小さな魚や微生物たちの栄養源になっています※2

─サンゴの減少は、私たちの暮らしにも影響するのでしょうか。

中村:サンゴが減少すれば、そこに暮らす魚類などの種類も変わるため、地域の漁業に影響がおよぶ可能性があります。

また、サンゴ礁は「自然の防波堤」とも呼ばれ、波のエネルギーを分散させることで、沿岸への被害を和らげています。近年では、サンゴの存在自体が、地形を維持し、防波堤としての機能を支えている可能性も指摘されています※3

気候変動によって台風や豪雨の激甚化が進むなか、サンゴは海の生態系だけでなく、沿岸環境や私たちの暮らしを守る存在として、ますます重要になると思います。

若手漁師から日焼け止めまで。広がりゆくアクション

─サンゴを守るために、全国でどのような取組みが行われているのでしょうか。

中村:現在は、行政や漁協、市民団体などを中心に、各地でサンゴの保全や教育・啓蒙活動が行われています。また、学校の部活動でサンゴについて学び、保全活動を行っている場所もあります。私が所属する東海大学海洋学部では20年以上前から地元漁協などの方々と共に、駿河湾に生息するサンゴの保全活動を実施しています。

─私たちが海に行ったときにできる「サンゴに優しい行動」はありますか。

中村:身近なところでは、日焼け止めの選び方があります。一部の成分は、一定濃度を超えるとサンゴに悪影響を与えることがわかっているため、サンゴに配慮した製品を選ぶことも、海を守る行動の1つです。

また、ゴミを持ち帰る、分別を徹底するといった基本的な行動も大切です。マイクロプラスチックは、砂浜などでプラスチックごみが砕かれて発生することも多く、ポイ捨てをしないだけでも海への負荷を減らすことにつながります。

─最後に、サンゴの減少を防ぐために、私たちが生活のなかでできることがあれば教えてください。

西表島でのサンゴの産卵シーン(画像提供:中村雅子教授)

西表島でのサンゴの産卵シーン(画像提供:中村雅子教授)

中村:一番は、休日などにサンゴのいる海へ行き、サンゴやサンゴの住む環境を直接感じていただきたい。日々の生活においては、海の環境やサンゴについて「知ること」がとても大切な1歩だと思います。サンゴに関する本や図鑑は近年たくさん出版されています。ぜひ図書館や書店などで探してみてください。水族館や科学館などのイベントでサンゴについて学ぶことも、大切なアクションです。

また、「サンゴがどこで生き残っているのか」を把握し、守っていくことも重要です。最近は「サンゴマップ※4」のような、市民参加型の取組みも広がっています。

小さな行動でも、多くの人が続ければ大きな力になります。そんな積み重ねが、海の環境を守ることにつながっていくと思います。

サンゴ礁に関する取組みにについてもっと知りたい方へ

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中村雅子

東海大学海洋学部教授。琉球大学卒業後、沖縄科学技術大学院大学(OIST)研究員を経て現在に至る。サンゴ群集の現状と、維持及び回復機構の解明を目的として、フィールド調査を中心とした調査研究を展開。主なフィールドは、西表島、高知県、静岡県といった黒潮流域のサンゴ群集。

※1:磯辺篤彦. “世界で初めて造礁サンゴの骨格から微細マイクロプラスチック片を検出” . 九州大学. 2024年9月20日. https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1153/ , (2026年5月15日閲覧) .


※2:中嶋亮太. “サンゴ粘液の役割とは?(入門編)” . 中嶋亮太のウェブサイト. 2017年8月2日. https://dr.ryotanakajima.com/coral/coral_mucus, (2026年6月8日閲覧) .


※3:和歌山県立南紀熊野ジオパークセンター/国立大学法人 和歌山大学/国立研究開発法人 産業技術総合研究所 ネイチャ―ポジティブ技術実装研究センター. “天然の防波堤としてのサンゴの役割―沿岸災害リスク低下に向けた波高低下率の将来予測― ” . 和歌山大学. 2025年12月9日. https://www.wakayama-u.ac.jp/news/2025120900045/file_contents/file_20251292153124_1.pdf , (2026年5月15日閲覧).

※4:日本全国みんなでつくるサンゴマップ. https://www.sangomap.jp/index.html , (2026年5月15日閲覧).

DSR-5132

構成・執筆:東谷好依  編集:宇野宙(CINRA, Inc) 

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