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わたしなりのサステナビリティ

サバンナから考えるエコツーリズム。日本人サファリガイド・太田ゆかが語る観光と環境

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近年、気候変動による干ばつや人間の密猟によって、サバンナの野生動物たちは大きな危機を迎えています。その背景には、スーパーに並ぶ果物やペットショップの存在など、日本に暮らす私たちに関連する問題も影響していることをご存知でしょうか?

気候変動や環境問題に対して関心を向ける方にフォーカスし、気づきやヒントを見出す連載『わたしなりのサステナビリティ』の第2弾。今回お話をうかがったのは、日本人女性初の南アフリカ政府公認サファリガイドの太田ゆかさん。

日々の仕事で、サバンナの実態や野生動物の現状を目の当たりにしてきた太田さんが描く、野生動物と人間の共生のかたちとは?

INDEX

南アフリカ政府公認サファリガイド

太田ゆか

アメリカ・ロサンゼルス生まれ、神奈川県育ち。立教大学観光学部在学中に、南アフリカのサファリガイド訓練学校に入学。現地の資格を取得後、2016年からクルーガー国立公園にてガイドとして活動する。ガイドの傍ら、野生動物の保護活動にも取り組むほか、NHKラジオやTBS『クレイジージャーニー』などメディアにも出演し、サバンナの魅力と現状を広く伝えている。著書に『私の職場はサバンナです!』(河出書房新社)がある。

気候変動が及ぼすサバンナへの影響とは? 乱される野生動物と人間との共生関係

―太田さんは、2016年から南アフリカ共和国にあるクルーガー国立公園のサファリガイドとして活動されています。この10年で感じるサバンナの変化はありますか?

太田:サファリツアーに出れば毎日出会えていた動物が、もう3ヵ月出会えないのが当たり前‪……みたいなことは増えましたね。特にシロサイ、クロサイは、密猟によって大きく数を減らしました。私がサファリガイドになった2016年前後は年間1,000頭以上が密猟に遭っていて、いまは探せど探せど‪……といった状況です。

サバンナに暮らすクロサイの親子(画像提供:太田ゆかさん ©︎YukaonSafari)

サバンナに暮らすクロサイの親子(画像提供:太田ゆかさん ©︎YukaonSafari)

太田:気候変動の影響でいうと、私が暮らすサバンナでは雨季と乾季のズレを感じる程度です。ただ、もっと深刻な影響が出ているのは、ボツワナやナミビアといった乾燥地帯です。ナミビアのクネネという地域ではエルニーニョ現象による干ばつが10年近く続くようなエリアもあって、そこではそれぞれが生きるための命の奪い合いが激化してるんです。

本来は砂漠も、雨季になるとある程度雨が降って川も流れます。シマウマ、キリン、オリックス、スプリングボック‪……砂漠環境にも適応した草食動物たちは、過酷な環境を頑張って生き延びてきました。

でも、長年の干ばつによる土へのダメージで、だんだん植物も育たなくなって、そこに暮らす草食動物が激減しています。彼らを捕食してきたデザートライオン※1はもう100頭未満しかいなくて、絶滅寸前の状態です。

※1 砂漠環境に適応したライオン

砂漠環境にも適応したライオン(画像提供:太田ゆかさん ©︎YukaonSafari)

砂漠環境にも適応したライオン(画像提供:太田ゆかさん ©︎YukaonSafari)

―気候変動による環境変化のしわ寄せがそんなところにきているんですね。

太田:そうなんです。産業革命以降、温室効果ガスの多くを排出してきたのは欧米を中心とした先進国であるというのは歴史的事実。これまでの気候変動の主な原因を作ってきたのは彼らであるという見方が根強いのに、その影響をもろに受けているのは砂漠やサバンナなどの生態系なんですよね。気候変動にはほとんど関与してこなかった現地の人たちや、そこに暮らしている動物たちが、危機的状況に追いやられている。

ナミビアの砂漠の奥の奥には、自給自足で暮らす遊牧民の集落があるんですけど、彼らが放牧するウシやヤギを、干ばつで何日間も獲物に出会えないライオンが襲ってしまうんです。自給自足で暮らす人にとって家畜は財産だし、明日を生きるためのもの。それをひと晩でライオンに全部食べられちゃうと、生活ができない。だから彼らは絶滅寸前のライオンだって駆除するしかない。この奪い合いは全部、もとを辿れば気候変動にたどり着くんです。

―食物連鎖の輪が乱れ、生態系全体に影響が広がってしまうわけですね。

太田:似たような構図はあちこちで起きています。例えば、私が暮らしているサバンナには巨大企業による大規模なオレンジ農園が広がっているのですが、それらも生態系に影響を与えています。

そのオレンジ農園の輸出先にはアジアも多くて、もちろん日本も該当します。スーパーで手に取ったオレンジがもし南アフリカ産だったら、高い確率でその農園で生産されたものなんじゃないでしょうか。

草原を失ったゾウがオレンジを食べたくて村に出てきてしまって、遭遇した村の人を襲ったり、それは困るから人間がゾウを駆除したり、そんな生きるための選択が起きているんです。でも、日本のスーパーでオレンジを買うときにまさかそんなこと想像しないですよね。

南アフリカ政府公認サファリガイドの太田ゆかさん

南アフリカ政府公認サファリガイドの太田ゆかさん

―野生動物が人里に降りてきて人を襲ってしまうというのは、日本でも耳にする話ですね。

太田:本質的には同じことが世界中で起こっています。人間が利便性を求めることで、野生動物の生活を圧迫しているという問題は、みんながちゃんと考えなきゃいけないこと。世界共通の問題のはずなのに、実際危機に直面しているのはどこでもやっぱり、限られた地域の人たちなんです。

南アフリカの農園は雇用を生み出している側面もあって、現地のガイドの間でも賛否が分かれているし、一概に悪とは言えません。ただ、根本的には地産地消が環境に一番いいのは間違いないですよね。その季節、その土地で食べられるものを食べる暮らしが世界中で実現したら、いまより環境も良くなる気がします。

野生動物の密猟の背景に、日本のエキゾチックペット問題も

―太田さんは野生動物の保護活動もされているそうですが、具体的にはどんな取組みをされているんですか?

太田:密猟者が仕掛けた罠を探して除去したり、罠に掛かってしまった動物を探して獣医さんに治療してもらったり、そういう探索作業に参加することが多いです。サバンナをひたすら歩いて目視で発見するしかない、本当に地道な活動ですね。

最近は、クラウドファンディングで集めた支援をもとに、サイの角を短く切る処置なども実施しました。サイの密猟者は、角が欲しくてサイの命を奪うので、獣医さんが先に切っておくことで密猟を防いでいるんです。サイの角は爪と同じで、切っても痛くないんですよ。

あとは、不幸な遭遇を避けるために野生動物にGPSをつける活動ですね。動物と人間が、お互い殺し合わないで済むように、被害を寸前で止めるためのアプローチです。

サイの角をあらかじめ短く切る活動(画像提供:太田ゆかさん ©︎YukaonSafari)

サイの角をあらかじめ短く切る活動(画像提供:太田ゆかさん ©︎YukaonSafari)

―いろいろな工夫があるんですね。

太田:でも、これらはあくまで応急処置。野生動物と人間がどう共生するかという課題を根本から解決できるわけではないので、保護活動とその問題が抱える難しさを感じていますね。

―サバンナにおける密猟はやはり深刻な問題なんですね。

太田:密猟はすごく多いです。サファリツアーの最中に、罠に掛かってしまった動物に遭遇することもあります。いろんな動物がいろんな理由で密猟に遭っていて、一攫千金を狙ってサイの角、ゾウの牙を求める国外からの密猟者もいれば、日々の食べるものに困ってインパラやゾウを狩る現地の密猟者もいます。あとは、エキゾチックペット※2関連ですね。

―エキゾチックペットは、日本で暮らす人にとっても他人事じゃないですね。エキゾチックペットの「〇〇カフェ」みたいなお店は、いま日本でも人気がありますし。

太田:実際、オウムやフクロウといった鳥類を含めて、密輸されているアフリカの動物はかなり多いんです。サバンナに暮らすショウガラゴという夜行性のサルがいるんですが、かわいい見た目からペットとして人気が出てしまい、密輸されて成田空港で押収されたことがありました。

やはり、「ペットとしての需要」が生まれてしまうことにそもそもの問題があると思います。野生動物は野生にいるべきもので、家のケージで飼われるものではないんです。それが保護されている動物なら、なおさらです。せっかく動物に興味を持って好きになったなら、その気持ちを触りたい、飼いたいという方向に向けるのではなくて、動物のためになる使い方をしてくれたらもっといいのになって思います。

※2 家庭でペットとして飼われるイヌ・ネコ以外の動物のこと

悪質なビジネスではないかよく調べ、真っ当なエコツーリズムを選択しよう

―サファリガイドという仕事には、「観光業」と環境や野生動物の「保護活動」、2つの側面がありますが、矛盾や葛藤を感じることはありますか?

太田:そうですね。観光と環境ってすごく難しい関係にあると思います。だからこそ、皆さんも旅行を計画するときは、予約する旅行会社や、アクティビティを管理する会社、現地の宿が、どれだけ持続可能な「エコツーリズム」※3に注力する会社なのかを調べてから決めてほしいと思います。

現地の環境やコミュニティに還元できるようなやり方をしているかは、サファリひとつとっても会社によって本当にまちまち。消費者側がちゃんと調べて、真っ当な会社にお金を払う、サポートするという選択をすることはすごく重要です。

―買い物はある種の投票行為、と言いますもんね。

太田:そういう心がけは非常に大切だと思います。環境保護を謳う団体でも、野生動物を商売道具として使う悪質なところって実はたくさんあって。

例えば、「このライオンは赤ちゃんのときにここの団体でレスキューされました」とレスキュー動物たちを集めて、お客さんとその動物とでセルフィーを撮れたり、抱っこできたりする施設って人気がありますよね。でも、そういう売り方だと、つねに「赤ちゃんライオン」が必要になる。成長して成体になったら、お客さんと触れ合わせるのは危ないですから。

だから無理やりブリーディング(繁殖)させて、赤ちゃんのうちはお客さんに触らせて、成体になったら収容施設みたいな小屋に閉じ込めて、買い手がついたら狩猟用のファームに売ってしまう悪質な団体や施設があるんです。

だけど、知らずにそんな施設をサポートしちゃう日本人旅行客も少なくなくて、動物好きな人たちが自覚のないまま、動物をお金儲けの道具にした悪質なビジネスに加担してしまうのは、やりきれません。

 ―アフリカ版の悪質ペットショップみたいな話ですね……。

太田:そうなんです。アフリカだけの問題じゃない。野生動物に対して「エサをあげられます」「一緒にお散歩ができます」みたいな宣伝文句があったら、怪しいかもって思ってください。

そういう悪質な動物ビジネスが横行しているからこそ、保護活動にツアー代金の一部を還元してくれるような旅行会社の存在は、すごくありがたいです。私自身も、今後は気候変動に対する取組みや野生動物の保護活動に還元できる仕組みをつくる側になりたいと思っています。

※3 地域の自然や歴史・文化の体験をとおして、それらの保全にも責任を持つ観光のありかたのこと

野宿ツアーは究極のエコツーリズム? 環境保全に貢献できるロッジを新設

―もうすぐ、クルーガーエリアで初となる日本人経営のロッジをオープンし、よりエコツーリズムに取り組んでいかれるんですよね?

太田:はい。日本人からすると、アフリカって危ないイメージがあったり、距離的にも文化的にも遠いと思うんですけど、日本人が運営するロッジがあるというだけで、少しでも身近に感じられたり、アフリカ渡航のハードルを下げられたら嬉しいですね。

地域の村の人にシェフやハウスキーパーとして働いてもらうことで雇用を生めるし、来てくれた人たちのツアー代金が、ちゃんと現地のコミュニティに還元される仕組みも整えるつもりです。参加者がサファリに来ること自体が保護活動の一環として機能するというか、環境保全に対してつながりを感じられるようなエコツーリズムを目指しています。

―たしかに、アフリカとのつながりを身近に感じられたら、私たちの行動も変わるような気がします。

太田:一度アフリカに来たら、絶対変わりますよ! なかでも「野宿ツアー」は素晴らしいので、本当に体験してほしいです。一度、動物本来としてのヒトの暮らしを体験すると、いまの生活とのギャップや、行きすぎた利便性を感じるはず。野宿ツアーは、ヒトという動物として4日間サバンナに滞在するので、エコツーリズムの究極体なんですよ。

太田さんが実施する野宿ツアーのトレイルの様子(画像提供:太田ゆかさん ©︎YukaonSafari)

太田さんが実施する野宿ツアーのトレイルの様子(画像提供:太田ゆかさん ©︎YukaonSafari)

―野宿ツアー! サバンナで野宿ですか!?

太田:普通のツアーだと、サファリカーに乗って動物を見るんですけど、それをさらにワイルドにして、歩いてサバンナに入ります。テントもなし。車から降りて自分の足で歩いた瞬間、動物を観察する立場から、サバンナの生態系の一員になれるんです。

自分が持てる食料だけを持って、出したゴミも全部自分で運ぶので、4日間に自分が出したゴミの量が顕著にわかります。電波も電気も何もないですけど、太陽が出たら起きて、沈んだら寝て、そういう自然のリズムに沿った不便だけどシンプルな生活は、実はすごく贅沢。普段なら不便に感じるサバンナの生活でさえ、野宿ツアーから帰ってくると「これ使いすぎてたな」とか「シャワー、無駄に浴びてるかも」って思うんです(笑)。

―すごい、体験してみたいです。

太田:ぜひ来てください! 私の夢は死ぬまでサバンナにいることなので、まずはロッジをちゃんと利益化させて、保護活動に還元できるようなサイクルをつくっていくのが直近の目標ですね。地球環境を守ることは、すなわち野生動物の保護につながっていますから。

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取材・執筆:小西麗  写真:尾藤能暢  編集:福田裕介(CINRA, Inc) 

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