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インフルエンザ流行はなぜ早まった?現役医師が語る感染症と気候変動の意外な関係

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通常、12月から3月にかけて流行シーズンを迎えるインフルエンザ。ところが、2025年は10月下旬から患者数が急増し続け、例年より1~2か月も早い流行を迎えました。その背景に、2025年の記録的な猛暑が影響しているとする説があります。

はたして、インフルエンザをはじめとする感染症の流行に、気候変動は関係しているのでしょうか。現役医師で、地球環境に配慮した医療を提唱する佐々木隆史さんにその真相をうかがったところ、温暖化によってこれまで発生しなかった感染症がパンデミックを起こす恐れがあるといいます。

また、感染症を予防する健康増進のための取組みが、同時に気候変動対策にもなる可能性についても教えていただきました。

INDEX

猛暑がインフルエンザの流行を早めたって本当?

―厚生労働省の発表によると、2025年は9月22日~9月28日の時点で、例年よりも早いインフルエンザの流行シーズンに入りました※1。その原因に夏の猛暑が関係しているという報道が複数見られましたが、それは本当ですか? 

佐々木:私は普段、町の診療所で総合診療医をしており、病児保育や訪問診療などで感染症の流行を肌で感じる立場ですが、確かに今冬のインフルエンザの流行はかなり早かった実感がありますね。
※1参照:「2025年10月3日インフルエンザの発生状況について」 (厚生労働省)

ただ、夏の猛暑が冬のインフルエンザの流行を早めるという直接的な因果関係を示すエビデンスはありません。今冬の早期流行に関しては、例年と異なる変異株が流行ってワクチンが効きづらかったことや、インバウンドの増加でウイルスが海外から持ち込まれやすくなっていたことのほうが、要因としては大きいでしょうね。

とはいえ、一般論として猛暑のあとは夏バテして免疫力や抵抗力が落ち、体調を崩しやすくなるので、インフルエンザの発症しやすさと相関関係はあると思います。冷房の効いた密室で換気をせずに過ごしたことで、「低温・乾燥・密集」というウイルスが繁殖しやすい条件が揃ってしまったのも一因にあるでしょう。

―海外では、「暖冬の翌年にはインフルエンザの流行が早まり、しかも重篤化する傾向がある」という研究結果もあるようですが※2、気候変動とインフルエンザの流行に関係はあるのでしょうか?

佐々木:確かに、暖冬の年はインフルエンザが流行しないので、集団の中に免疫を持たない人が多くなり、翌年に流行しやすくなる可能性はあります。因果関係とまでは言えなくても、ある程度の相関関係はあるでしょうね。

気候変動というと気温が高くなるイメージばかりありますが、実際は猛暑の翌年にいきなり冷夏が訪れたり、雨が降らないかと思ったら記録的な豪雨に見舞われたりと、極端な気象現象として現れるんですね。極端な気温の変動が、生き物の体にいい影響を及ぼすことはありませんから、そこにはもちろんさまざまな健康上の問題が出てくると思います。
※2参照:2013年「Climate change and influenza: the likelihood of early and severe influenza seasons following warmer than average winters」

温暖化がパンデミックを引き起こす恐れも

―インフルエンザ以外にも、気候変動は世界中で多くの感染症に影響を与えているとか。「375の感染症のうち58%に相当する218の感染症で、気候変動に起因する患者の増加や重症化が起きている」とする研究結果もあります※3。日本でも、気候変動によってこれまで発生しなかった感染症が流行する恐れはありますか?

佐々木:すでに他人事ではありません。デング熱やジカ熱などの感染症を媒介するヒトスジシマカは、かつては栃木県までしか生息していませんでしたが、温暖化に伴い徐々に生息域が北上・拡大していき、現在は北海道以外の全都府県で定着が確認されています※4
※3参照:2022年「Over half of known human pathogenic diseases can be aggravated by climate change」
※4参照:IASR Vol. 41 p92-93: 2020年6月号「ヒトスジシマカの分布域拡大について」(国立感染症研究所)

また、マダニによって媒介されるSFTS(重症熱性血小板減少症候群)という感染症は、かつては西日本を中心に発生していましたが、温暖化でマダニの活動域が北上したため感染地域が東日本にも広がり、2025年8月にはとうとう北海道でも発症者が確認されました※5

―今後、温暖化をはじめとする気候変動が進めば、こうした事例はますます増えていくのでしょうか。

佐々木:デング熱、ジカ熱、黄熱を媒介するネッタイシマカは、熱帯・亜熱帯地域に広く生息する蚊で、戦中から戦後にかけて一時的に日本にも生息していましたが、一度絶滅しています。しかし海外から侵入したネッタイシマカが、温暖化によって再び定着する可能性は否定できません※6

さらに恐ろしい可能性もあります。たとえ熱帯・亜熱帯地域で流行している感染症のウイルスが日本に侵入して発症者が出ても、それを媒介する宿主である蚊やダニが寒さで冬を越せなければ、感染はひと夏で自然に終息し、それ以上蔓延しません。

ところが、暖冬などの気候変動によって宿主が冬を生き延びるようになると、感染が終息せずに拡大を続けてパンデミックになる恐れがあるのです。

※5参照:2025年8月7日「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生について」(札幌市)

※6参照:IASR Vol. 41 p92-93: 2020年6月号「日本におけるネッタイシマカの分布, 侵入および定着」(国立感染症研究所)

健康でいることは気候変動対策にもつながる

―私たち一人ひとりが実践できる気候変動対策としてどんな取組みやアクションが考えられるでしょうか?

佐々木:実は、日頃から免疫力を高めて病気にならないようにすることは、気候変動対策にもつながっているんです。というのも、国内の温室効果ガス排出量の約5.2%は、健康・医療関連分野からのものなんです※7

例えば、病院は空調や照明で大量の電力を消費しており、一人あたりの温室効果ガス排出量は入院医療のほうが外来医療より10倍近く多いと言われています。

また、医薬品や医療機器の製造・使用、医療廃棄物の焼却にも多くのエネルギーが使われています。つまり、病院にかからないで済む健康体でいることは、脱炭素にもなるんです。

―予防医療が、同時に気候変動対策にもなっているとは意外でした。

佐々木:なかでも、インフルエンザのように免疫力が下がると感染しやすくなる病気は「Self-Limited Disease」(特別な治療をしなくても自然に症状が改善・治癒する病気)と呼ばれ、手洗い・うがい・マスクといった基本的な感染対策や、ワクチンなどで免疫力を上げることが何よりも重要です。
※7参照:2020年「Carbon footprint of Japanese health care services from 2011 to 2015」

また、徒歩や自転車移動を増やしたり、栄養バランスの良いヘルシーな食事を心がけたりといった健康増進対策も、脱炭素には有効ですよね。気候変動対策は「我慢」だというイメージがありますが、地球のためになると同時に、自分のためにもいいことが返ってくると考えれば、楽しみながら続けられる気がしませんか?

DSR-2117

佐々木隆史

滋賀県湖南市の「医療生協こうせい駅前診療所」で所長を務める臨床医。2022年、地球環境に配慮した医療を提唱する医師らを中心に「一般社団法人みどりのドクターズ」を発足し、代表理事を務める。医療従事者ができる温暖化対策を共有したり、政策に対する署名活動を呼びかける活動などを行う。

取材・執筆:小西麗  イラスト:小幡彩貴  編集:福田裕介(CINRA, Inc) 

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