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Green Music つながる風景

“阿蘇の野焼き” 人間と自然がともに守ってきた大草原

“読む気候変動対策”メディア
Green Timesについて

記事を“読む”だけで森林保全活動の支援につながります
チューリッヒ保険会社は企業としての排出CO2削減などはもちろん行った上で、気候変動という全人的な問題へ対応するには一人ひとりの理解と参加も重要であると考え、多くの人が気候変動についてよりよく知り参加できる“きっかけ”作りを始めました。
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九州のほぼ中央に位置する熊本県阿蘇地域。阿蘇山のカルデラを中心に広がるのびやかな草原は約22,000haにも及び、国内最大規模を誇る。緑をたたえる草原には牛たちが放たれ、その美しい風景を見ようと多くの人が訪れる。実は阿蘇の草原は私たちにその景観以上の大きな恩恵をもたらしている。阿蘇の草原では古くから人の手によって草原に火を入れる「野焼き」が行われ、人為的に枯れた植物を燃やすことで、新たな芽吹きを促してきた。CO2を排出することで温暖化の原因になると考えられがちな草原の野焼きだが、実は気候変動の抑制に一役買っているのだ。伝統的な野焼きの文化を受け継ぎ、草原を守ろうとする阿蘇の活動について紹介する。

INDEX

[連載概要]
気候変動は、私たちの暮らしや自然環境に深く影響を与える課題です。
チューリッヒ保険会社は、気候変動に対し、より多くの人々とともに考え、行動するきっかけをつくりたいと考えています。
本連載は、その想いをもとに、YouTubeチャンネル『チューリッヒ保険会社のGreen Music』で公開される作品の背景にある自然環境やその土地の取組みを掘り下げ、持続可能な未来につながる手がかりになればと考え生まれました。作品では伝えきれないストーリーをお届けしていきます。

どこまでも続く緑の草原で、牛たちがのんびりと過ごしている。その牧歌的な風景は阿蘇地域の最大の魅力だ。大草原の広さは約22,000ha、東京ドーム4,600個分に匹敵する広さで、国内最大規模の半自然草原として知られる。一見すると手付かずの自然に思えるが、「半自然草原」とは人が手を加えることで保たれている草原のこと。阿蘇の草原とは、いったいどんなふうに成り立っているのか、阿蘇市の土木部住環境課で都市・環境係を務める緒方徹さんに教えてもらった。

「阿蘇の草原は、平安時代の書物に草原を意味する牧の記述があることから、千年の草原と呼ばれています。さらに近年の研究によれば、約13,000年前の縄文時代から存在したともいわれています。降水量の多い日本の気候では、通常草木は年月の経過とともに樹木へと育ち、そして森林へと変化してしまいます。阿蘇では古くから牛や馬を飼う農家が多く、放牧や、家畜の餌となる牧草を得るために草原は不可欠なものでした。そこで人々は春先に草原に火を放ち、枯れた草木を燃やす『野焼き』を伝統的に行ってきました。野焼きの後には新しい植物の芽が出て、また健やかな草原が育ちますし、成長しすぎて森林になることもありません。秋に刈り取った草は冬の飼料や堆肥として使用され、循環されてきました。人と自然が絶妙なバランスを保ちながら共生してきたことで、今も美しい草原が残っているのです」

炎が草原を焼き払い黒い大地に染める「野焼き」は、阿蘇地域に春を告げる風物詩としてニュースなどでも報じられる。ただ、その役割について深く理解している人は、地元でもそこまで多くないという。

「伝統的な行事とか、祭りのようなものだと思われることも多いのですが、『野焼き』は阿蘇地域に暮らす人々の暮らしを支える大切な作業です。加えて、阿蘇を特徴づける雄大な景観や自然の生態系を保つためにも欠かせないことなんです」と緒方さん。野焼きによって草原を維持することの重要性を3つの側面から解説してくれた。

草原では馬牛の放牧も。広大な草原を見ながらのドライブは阿蘇観光の見どころの一つ。野焼きによって低木を除去することで馬や牛に害虫がつくことを防げる。

草原では馬牛の放牧も。広大な草原を見ながらのドライブは阿蘇観光の見どころの一つ。野焼きによって低木を除去することで馬や牛に害虫がつくことを防げる。

春先に行われる野焼きは、古くから阿蘇の風物詩として知られる。森林への延焼を防ぐために事前に防火帯を作ったり消火用具を準備したり、永年の経験により培われたさまざまな技術や知識が必要になる。

春先に行われる野焼きは、古くから阿蘇の風物詩として知られる。森林への延焼を防ぐために事前に防火帯を作ったり消火用具を準備したり、永年の経験により培われたさまざまな技術や知識が必要になる。

草原がもたらしてくれる恩恵

緒方さんが最初に挙げたのが、草原と生物多様性の関わりだ。

「阿蘇の草原には阿蘇地域とその周辺にしか生育しないハナシノブをはじめ、絶滅危惧種のオグラセンソウなど約600種の植物が生育しています。蝶類では県内で確認されている117 種のうち109 種が阿蘇に生息しています。多くの昆虫や鳥類、哺乳類が草原をすみかとしているので、草原を維持していくことは、そうした多くの生き物の命を支えることにもつながるのです」

そして、私たちの生活と命に関わること。

「草原は雨水を土の中で貯え、ゆっくりと河川に送り出します。阿蘇の山に降った雨は草原を経て九州に流れる6つの1級河川の源流となり、福岡都市圏を含む流域人口約500万人の生活を支える水源になります。渇水時期でも水が枯れることなく流れ続けるのは、草原があるからこそです。近年、熊本では気候変動の影響もあるのか集中豪雨が多くなっています。しかし雨水を土壌に溜めて時間をかけて放出する草原があることで、大雨の際に河川の氾濫を防ぐことにもつながっていると考えられます」

さらに、草原は気候変動に対しても大きな役割を果たすと考えられているのだとか。

「毎年新しく芽吹く阿蘇の草原は、多くのCO2を吸収し、地中に貯蔵します。その1年間のCO2吸収量は1 haあたり6.9tと言われていますが、これを草原全体で考えると、阿蘇郡市の全世帯が1年間に排出するCO2量の1.7倍に相当します。野焼きをすることでCO2を出しているのではと質問を受けますが、それを上回る量の炭素を草原が吸収していることから、野焼きが地球温暖化の防止に一役買っているということをご理解いただけたら嬉しいです」

秋の草原には一面のススキ野原が広がる。背が高いものでは2m以上になるので、春先に火入れをして焼き、新しい植物の芽吹きを促す。

秋の草原には一面のススキ野原が広がる。背が高いものでは2m以上になるので、春先に火入れをして焼き、新しい植物の芽吹きを促す。

減少する草原を復活させるために

古くから人々の暮らしを支え、自然環境を守ってきた阿蘇の草原。それが今、存続の危機に立たされているという。

「畜産を生業とする農家や地域全体の高齢化、人口減少により、野焼きに従事する人が年々少なくなってきました。野焼きは森林への延焼を防ぐために、永年の経験により培われたさまざまな知恵や技術が必要です。それらの継承も途絶えつつあり、野焼きの存続が難しくなっている地域も多くあります。実際、阿蘇郡市7市町村の草原は、この約100年間で半分以下に減少し、県の調査などによると、このままでは30年後、阿蘇の6割の草原が消えてしまうかもしれないという試算もあります」

そうした背景を受け、県や市、環境省、そして民間の組織が知恵を出し合い、未来の世代に草原を残すさまざまな取組みを続けている。

「全国から野焼きボランティアを募るとともに、山林延焼を防ぐための防火帯の恒久化など、限られた人員や労力でも野焼きが継続できるようなしくみづくりを行っています。同時に、阿蘇の草原の価値を広く発信し、観光の促進を通じてその利益を草原再生に還元する方法も考えているところです。阿蘇の草原は1000年以上にわたり、与えられた地形の条件を有効に利用し、高い生産性をあげてきました。人と自然が共生し、有機的に進化する景観という世界でも稀有な事例として、世界文化遺産への登録も目指しています。ぜひ多くの人に現地に足を運び、まずはその美しさを体感していただけたらと思っています」

阿蘇の草原再生を目指す阿蘇グリーンストックによる「阿蘇草原再生プロジェクト」では、ボランティアの募集をはじめ、ふるさと納税や阿蘇での宿泊、買い物などを通して草原再生を支援できる仕組みを構築するなど、ユニークなアイデアで人材や財源を確保しようとする動きもある。はるか昔から人の手によって守られてきた草原を、人の手によって後世に伝えていく。そんな阿蘇の挑戦を応援したい。

美しい草原を生かして、乗馬などの観光アクティビティも盛んに行われている。その価値を広く伝えることもまた、草原再生のために欠かせない。

美しい草原を生かして、乗馬などの観光アクティビティも盛んに行われている。その価値を広く伝えることもまた、草原再生のために欠かせない。

小林百合子(こばやし・ゆりこ)
出版社勤務を経て独立。自然や野生動物などをテーマに本の執筆や雑誌の編集などを手掛ける。著書に『山小屋の灯』『いきもの人生相談室』(ともに山と溪谷社)など。現在、知床に近い道東・弟子屈町に暮らしながら、北の自然についての発信も行う。

関連動画

Chill Music - 朝陽に染まる草原と静穏な風が紡ぐチルBGM - masaki tomiyama

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Photo:阿蘇市  Text:Yuriko Kobayashi 

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