渦潮で知られる鳴門海峡をはじめ、美しく雄大な自然を有する徳島県鳴門市は、人口およそ5.3万人が暮らす地方都市で、市内には大鳴門橋が架かり、淡路島と四国を結ぶ交通の要所となっている。淡路島を経由して本州と接続されることから、鳴門市は“四国の東玄関”としての役割を担っている。そんな自然豊かな鳴門市は、2050年度までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ゼロカーボンシティ」の実現を目指している。カギとなるのが再生可能エネルギーの導入拡大。地域に適した再エネは何か。住民の理解を得るにはどのような対話が必要か。市はこうした課題に正面から向き合い、着実に取組みを進めている。
[連載概要]
気候変動は、私たちの暮らしや自然環境に深く影響を与える課題です。
チューリッヒ保険会社は、気候変動に対し、より多くの人々とともに考え、行動するきっかけをつくりたいと考えています。本連載は、その想いをもとに、YouTubeチャンネル『チューリッヒ保険会社のGreen
Music』で公開される作品の背景にある自然環境やその土地の取組みを掘り下げ、持続可能な未来につながる手がかりになればと考え生まれました。作品では伝えきれないストーリーをお届けしていきます。
今、日本各地の自治体が「ゼロカーボンシティ」の実現を目指し、目標達成年を宣言した上で取組みを進めている。そもそも、こうした動きのきっかけとなっているのが、日本が国として発表している脱炭素に向けた目標値。日本は2030年度までに、2013年度と比べて温室効果ガス排出量を46%削減すると、国際社会に向けて発表している。日本は、世界でも有数の経済規模と人口を有する国であり、CO2排出量は中国、アメリカ、インド、ロシアに次いで世界第5位(2022年時点*1)。ちなみに、4位のロシアと比較すると排出量は約半分にとどまっている。日本は国際的な責任を果たすことを期待されており、気候変動対策に本格的に取り組んでいる。
そうした中で発表されている日本の目標値。達成のためには全国の行政の協力が欠かせない。徳島県・鳴門市でも、CO2を出さない新たな社会を目指して、さまざまな取組みがスタートしている。
鳴門市は、瀬戸内海に面した風光明媚な土地。上空から見るとハートの形をしている無人島「鏡島」や、その周囲に浮かぶ筏漁の筏など、穏やかな内海に美しい景観が広がる。こうした豊かな自然を次世代に継ぐためにも、再生可能エネルギーを活用した脱炭素社会の早期実現が求められている。
*1 EDMC/エネルギー・経済統計要覧2025年版
鳴門市に眠る、再生可能エネルギーのポテンシャル
再生可能エネルギーとは、太陽光や風、水力、地熱、バイオマスなど、自然の力を利用して電力を生み出す発電方法である。略称の「再エネ」という言葉は広く浸透しているが、「自然エネルギー」とは厳密には異なる概念であり、自然界に存在するエネルギーのうち、再生可能なものを指す。
地域ごとに日照時間や吹く風の強さ、発電設備を設置できる土地の有無などが異なるので、導入にあたっては、再生可能エネルギーを導入できるポテンシャルがどれだけあるかが推計されている。鳴門市の再生可能エネルギー導入ポテンシャルは年間約650,589MWh*2。鳴門市の電力使用量は年間約479.643MWh*3なので、理論上は市の電力を再エネで賄えることになる。ちなみにこのポテンシャルの推計には、すでに導入されている再エネ発電量や太陽光発電や風力発電に適さない土地のポテンシャルは差し引かれているので、より実現性の高い数値と言えるだろう。鳴門市で導入ポテンシャルが高いとされているのは太陽光発電と陸上風力発電。市ではまず、太陽光発電の普及に向けて取り組んでいる。
*2 REPOS(再生可能エネルギー情報提供システム)による推計
*3 環境省「自治体排出量カルテ(2022年度)」より
鳴門市の再生可能エネルギー導入ポテンシャルとその内訳および年間電気使用量。太陽光発電と風力発電のポテンシャルが高く、次いでバイオマスエネルギーも推計されている。合計して年間650,589MWhもの電力ポテンシャルを有するという計算だ。
市民の再エネ導入を後押しする補助金制度
再エネ導入ポテンシャルの推計は、市民の意識を変えていくうえでも重要な情報となる。自分たちの消費している電力量について知ること。そして、それを上回る再エネ発電の可能性があることを示すことによって、“脱炭素社会は夢物語ではなく、実現可能な選択肢のひとつである”というメッセージを打ち出していける。
「私たちが取組みにおいて大切にしているのは、再生可能エネルギーについて市民の皆さまに知っていただくことです」と話すのは鳴門市・環境政策課の辻さん。理解を深めるための正しい情報発信や、市民と共に再エネ導入を進めていくための補助金制度を2025年度よりスタートさせている。
「この補助金制度は、住宅用太陽光発電システムや家庭用蓄電池システム、電気自動車等充給電システムなどに適用されます。個人向けの補助金なので、これを機に再エネへの理解や関心が深まっていけばと考えています」
鳴門市の掲げる目標のひとつが、2030年度に2013年度比で温室効果ガス排出量を46%削減するというもの。簡単に実現できる数値ではないが、個人宅へのソーラーパネル設置など、市民レベルでの電力の自給自足が普及することで、目標値に大きく近づけるという試算も出ているという。鳴門市のCO2排出量の内訳では、その18%を家庭部門が占めている。つまり、市民も一体になって取り組むことで大きなインパクトが見込めるのだ。
鳴門市の部門・分野別CO2排出量構成比(2022年度*3)。産業部門や運輸部門が大きな割合を占めるが、家庭部門のCO2排出量も少なくないことがわかる。
大切なのは住民参加による環境づくり
もうひとつ、鳴門市の再エネ導入において大切にされているのが、市民との合意形成だ。再生可能エネルギーは急速に社会に浸透しつつあるが、それによって多様な課題も生まれている。景観問題や騒音、動植物への影響などを不安視し、導入自治体の地域住民から声が上がるケースが増えているのも事実。社会を変えるための再生可能エネルギーが、新たな社会課題を生み出しているという、もどかしい状況が起きている。持続可能な社会を目指す上で、再エネ開発地域に暮らす人々の声を聞き、多くの理解を得たうえで普及を図ることが重要だ。
「2024年度に改定した鳴門市環境基本計画では、“環光のまち・美しい鳴門”を掲げて、新たに地球温暖化対策実行計画(区域施策編)を含めて策定しました。これらは専門家のみならず、再生可能エネルギー関連の事業者や団体、金融機関、住民の意見を取り入れて策定しています」
また鳴門市は、コウノトリなど多様な渡り鳥が飛来する地域。風況の優れた鳴門市では、再エネの推進を図りながらも、一方で導入による影響を最小化するという両立を果たすことを目指して、地域環境に十分配慮した陸上風力発電の導入可能な場所を見つける“ゾーニング(適地評価)”を実施している。鳥だけでなく、さまざまな動植物への影響も最小限にするために、WWFジャパン(世界自然保護基金)等と共にゾーニングマップを作成。ゾーニングマップとは、その地域の地理的な特徴を踏まえて、利用形態に応じた評価をすることで、例えば風が強く吹く地域であっても、住宅エリアが近い、希少な渡り鳥のルートとなっている、などの特徴があれば、風力発電としての土地利用評価は低くなる。
発電事業者が風力発電事業を行う際には環境アセスメントの手続きが行われ、市は県からの意見照会に対し、ゾーニングマップや地域住民の意見を参考に意見書を提出する。市から県、県から国へと意見書が届き、その結果、国から企業へ勧告がなされる。こうしたステップを踏みながら、地域と共生した再生可能エネルギーのあり方が模索されるのだ。市のゾーニングマップはそうした基盤づくりに確かに生かされている。
脱炭素と防災。二つをつなぐフェーズフリーの考え方
脱炭素社会への意識が高まる鳴門市は、兼ねてから防災意識の高さでも知られていた。市が掲げるのは、『いつも』の取組みが『もしも』の時につながる、という“フェーズフリー”の考え方。「日常」と「非日常」というフェーズの垣根を取り払い、日頃から活用しているモノや場所を、非常時にも役立てる仕様にする取組みだ。
鳴門市では、2017年度末の地域防災計画の改定に際し、「フェーズフリーの研究・啓発」を明記し、取組みが始まっていった。
2025年度から開始している再エネ設備導入に関する補助制度も、フェーズフリーの考え方を取り入れている。今後、補助金制度によって個人宅へのソーラーパネルや蓄電池の普及が進めば、非常時の電力として大いに活用されるはず。再生可能エネルギーによって、電力の地産地消が進むということは、防災に強い地域づくりにもつながっていく。
「2024年に完成した鳴門市役所新庁舎にもフェーズフリーの考えが導入されています」と辻さん。「鳴門市は、南海トラフ地震発生時には津波などの被害も想定されるエリア。市庁舎の地盤面はかさ上げし擁壁と防潮扉で囲い、非常時の機能維持を図っています。外階段は、休庁日や夜でも屋外から直接、上層階のバルコニーへ垂直避難ができるほか、免震なども考えて建築を低層に抑える工夫などがされています。それだけでなく、室内に入る直射日光を遮るルーバーを設置することで省エネも考えられている。鳴門市のゼロカーボンシティに向けた取組みを先頭に立って実現した建築となっています」
鳴門市は南海トラフ地震の津波避難対策特別強化地域に指定されている。災害対策の拠点となる新庁舎は、建物を4階建ての低層に抑え、基礎免震で南海トラフ地震に備える構造に。バルコニーやルーバーによって耐候性を高め、ZEB Ready(設計段階での年間の一次エネルギー消費量を50%以上削減した非住宅建築物に与えられる評価基準)を達成している。
「くるくる なると」はフェーズフリーの考え方が散りばめられた道の駅。屋上は、普段は多世代が集まるコミュニティー機能をもった遊び場だが、非常時には避難場所となる。屋上に設置した集客コンテンツのジップラインの高さについては、東日本大震災の最大津波高を参考にすることで防災啓発を図り、非常時の迅速な避難行動に繋げる狙いがある。
2030年という節目の年まで残り時間はわずか。だが、持続可能な形を探るには物事を丁寧に進めていくことが欠かせない。適切な調査や市民との合意形成にひとつひとつ向き合う鳴門市の姿勢は、多くの他地域にとっても模範となるはずだ。
内田有佳
編集者・ライター。雑誌、書籍、Webを中心に、ライフスタイルをテーマとした企画・編集・執筆を行う。アートブックの制作にも関わり、編集を担当した図録に『いわさきちひろ生誕100年 Life
Chihiro Iwasaki 100』(ちひろ美術館・東京)がある。
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Photo&Graph:Naruto City Text:Yuka Uchida