気候変動の“いま”がわかるウェブマガジン
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Green Music つながる風景

群馬・中之条町が目指す、地域の資源を活かした循環型社会

群馬県の北西部、吾妻郡に位置する中之条町は、名湯・四万温泉や、“四万ブルー”で知られる青く澄んだ奥四万湖、毎回多くの人で賑わう国際現代芸術祭「中之条ビエンナーレ」など、多彩な魅力で訪れる人を惹きつけてきた。そんな中之条町は、循環型社会に向けた取組みでも注目されつつある。再生可能エネルギーを扱う地域新電力の設立や地域の木材の活用など、自治体発のサステナブルな試みについて話を聞いた。

INDEX

[連載概要]
気候変動は、私たちの暮らしや自然環境に深く影響を与える課題です。
チューリッヒ保険会社は、気候変動に対し、より多くの人々とともに考え、行動するきっかけをつくりたいと考えています。
本連載は、その想いをもとに、YouTubeチャンネル「チューリッヒ保険会社の Green Music」で公開される作品の背景にある自然環境やその土地の取組みを掘り下げ、持続可能な未来につながる手がかりになればと生まれました。作品では伝えきれないストーリーをお届けしていきます。

人口約1万4000人の中之条町は、全国でも先駆けて地産地消型のエネルギー供給をスタートさせた自治体だ。東日本大震災を機に、自治体で使うエネルギーについての議論が活性化される。2013年に「再生可能エネルギーのまち中之条」が宣言され、同年に自治体の主導で再生可能エネルギーを扱う電力会社「中之条電力」が設立された。当時はまだ地域新電力は珍しく、自治体による電力会社の設立は全国でも初となる試みだった。2015年には「中之条電力」の事業を継ぐ新会社として「中之条パワー」が誕生。現在は、地域の活性化なども含めた再生可能エネルギー事業の推進を「中之条電力」が、発電した電気の小売を「中之条パワー」が担っている。

設立から10年以上が経った今、町内では民間経営の1カ所を含む全4カ所の太陽光発電所と、1カ所の小水力発電所が稼働している。それらすべてで発電できる電力量の想定は、年間およそ930万kWh。これは一般家庭の消費電力に換算すると約2350世帯分*に相当する。発電した電力は町役場庁舎や総合体育館、小中学校などに供給。町内の公共施設の400カ所以上が再生可能エネルギーによって運用されている。町内では、中之条パワーと契約して再エネを使用している一般家庭もあり、今後は住宅への再生可能エネルギーの普及により力を入れていくという。

*一世帯の年間電力消費量を3950kWh(環境省「令和4年度家庭部門のCO2排出実態統計調査 資料編(確報値)」)とした場合

沢渡温泉にある太陽光発電所。この地域には第1から第3まで3つの太陽光発電所がある。第2太陽光発電所は耕作放棄地を活用するなど、自然環境への配慮もなされている。

沢渡温泉にある太陽光発電所。この地域には第1から第3まで3つの太陽光発電所がある。第2太陽光発電所は耕作放棄地を活用するなど、自然環境への配慮もなされている。

2017年には農業用水を供給するための施設「美野原用水」を活用した小水力発電所も完成した。

2017年には農業用水を供給するための施設「美野原用水」を活用した小水力発電所も完成した。

里山を守るために、木材の活用も拡大

循環型社会を目指す中之条町では、再生可能エネルギー以外の取組みも進んでいる。

「今、力を入れていることのひとつが地域の木材を積極的に活用していくことです」と話してくれたのは、中之条町役場地域共創課の黒岩紀彦さん。

中之条町は美しい里山と共に暮らしを紡いできた地域で、町の87%を森林が占めている。しかし、高齢化などで林業従事者が減少し、里山の荒廃が問題となっている。

戦後に植林された杉や檜は、すでに樹齢70〜80年。十分に活用できる大きさまで育っているが、伐採する人手が足りないことや国産材の需要が少ないために、そのまま放置されている。放置林が問題視される理由は、大きく育った木々によって地表に日光が届かなくなるから。薄暗い森では低木や草が育たなくなり、植物の根が張り巡らされていない軟弱な地面が生まれる。そこに豪雨などによって大量の水が流れ込むと、地滑りや土砂崩れの発生リスクが高まるのだ。

「人工林は適切な管理が必要です」と黒岩さん。「しかし、木材は買い手がいないことには伐採されません。そこで町が木材を引き取ることにしたのです。そのために生まれたのが、2023年に完成した中之条町木材活用センターです」

町民は、所有する山林で伐採した木をこのセンターに持ち込み、自治体に引き取ってもらうことができる。自治体はそうして集めた木を製材し、地域産の木材として有効活用。製材時に出る端材は木材チップにして、地域で活用しているバイオマスボイラーの燃料にしている。

閉校した旧沢田小学校の校舎と敷地を活用した中之条町木材活用センター。地域の森や林業を知る「木育」の一環として、小学生の見学も受け入れている。

閉校した旧沢田小学校の校舎と敷地を活用した中之条町木材活用センター。地域の森や林業を知る「木育」の一環として、小学生の見学も受け入れている。

林業について知ってもらうためのガイドツアーも開催。適切な森林保全について学ぶことができる。

林業について知ってもらうためのガイドツアーも開催。適切な森林保全について学ぶことができる。

「観光ツアーのノベルティとして中之条町産の木材で作ったスマートフォンスタンドを配布したこともありました」と話すのは中之条町観光協会の八並光相さん。

「林業の課題を、観光と絡めながら解決していく。そういった柔軟な取組みができるのも中之条町ならではだと思います。この町には、“まちづくり団体”を名乗る『中之条コネクト』というNPO法人があって、彼らが横断的な視点で町の課題に関わっているんです。スマートフォンスタンドも彼らから生まれたアイデアですね」

自治体主導の取組みでは、部署を跨いでプロジェクトを企画するのが難しいことも多いが、そうした場面で活躍するのが『中之条コネクト』だそう。人と人を繋ぎ、町ぐるみで新しい試みを始めていく。中之条町で次々と画期的な取組みがスタートする理由が少しずつ分かってきた。

地域経済を元気にする「グリーンECO感謝券」

自然エネルギーの供給と、地域木材の活用。この2つの取組みには、地域住民が参加できる工夫もある。それが、地域商品券である「グリーンECO感謝券」だ。

「住民は、自宅のソーラーパネルなどで発電した再生可能エネルギーを、中之条パワーに寄付することができます」と黒岩さん。対象となるのは、卒FITの契約者(国による住宅用太陽光発電における余剰電力買い取り期間が終了した人)だ。寄付された電力は町が中之条パワーを通じて受け入れ、町の使用電力として地域内で活用されている。

「そのお礼として町が配布しているのが、グリーンECO感謝券です。これは中之条町のさまざまな商店で活用できる地域商品券。地域経済を活性化させる仕組みでもあります」

地域商品券「グリーンECO感謝券」は1枚で1000円分の価値があり、国による余剰電力の買取価格に近く設定されている。「グリーンECO感謝券」は地域の飲食店やガソリンスタンド、理容店などで使用できるそうだ。

地域で経済を回すことは「地域内経済循環」と呼ばれ、地方復興のカギとなっている。観光など地域の外からもたらされる収入に大きく頼るのではなく、住民たちで町の経済を循環させることができれば、自立した地域社会を構築できる。

地域商品券「グリーンECO感謝券」。中之条町の多くの商店や施設で利用できる。

地域商品券「グリーンECO感謝券」。中之条町の多くの商店や施設で利用できる。

地域の廃校や木材など、町資源活用の重要性

中之条町で画期的な取組みが始まる背景を、中之条町役場観光商工課の本多直子さんは「自然や文化を愛する下地があるからではないか」と考察する。

「町内には伊参スタジオという、廃校になった校舎を再生した文化拠点があります。ここで毎年開催している伊参スタジオ映画祭は今年で24回を数えるまでになりました。町の人々は最初こそ驚いていましたが、やがてイベントに協力してくれるように。新しいもの好きで、文化的な意識がもともと高いのだと思います」

伊参スタジオ。1967年に閉校した伊参村立伊参中学校の校舎を再生。映画などの撮影スタジオや撮影チームの合宿所としても活用されている。(Photo:Kazuyuki Miyamoto)

伊参スタジオ。1967年に閉校した伊参村立伊参中学校の校舎を再生。映画などの撮影スタジオや撮影チームの合宿所としても活用されている。(Photo:Kazuyuki Miyamoto)

その話に観光協会の八並さんも頷き、「中之条町は“今あるもの”だけで十分に豊かなんです」と続けます。この町の人々は、地域にある資源に目を向けるのが得意なのだそう。例えば伊参スタジオや中之条町木材活用センターは廃校を生まれ変わらせた場所。再生可能エネルギーや木材の活用は、この土地の自然資源を最大限に活用する取組みでもある。

循環型社会の実現には、膨大な予算や革新的なテクノロジーが必ずしも必要なわけではない。“今あるもの”を大切にしながら、限られた資源を巡らせることができれば、この先もずっと持続可能な、安定した地域社会をつくることができる。中之条町の取組みは、地方だけでなく都市部にとっても、大きな示唆に富んでいる。

内田有佳
編集者・ライター。雑誌、書籍、Webを中心に、ライフスタイルをテーマとした企画・編集・執筆を行う。アートブックの制作にも関わり、編集を担当した図録に『いわさきちひろ生誕100年 Life Chihiro Iwasaki 100』(ちひろ美術館・東京)がある。

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Photo:Nakanojo Town  Text:Yuka Uchida