世界中で社会問題への意識の高まりとともに、各企業や個々人の気候変動に対する向き合い方も変化してきている昨今。なかでもSNSやインターネットに慣れ親しみ、リアルタイムで世界のニュースにアクセスできる環境で育った「Z世代」は、異常気象や自然災害の影響について、従来の世代よりも身近な問題としてとらえているのではないでしょうか。
そんな世界のZ世代は、実際に環境問題・気候変動をどのようにとらえ、どんな未来を描いているのだろうか。このコラムでは、書籍『#Z世代的価値観』『SNS時代のカルチャー革命』などの著者で、Z世代当事者のジャーナリスト・研究者の竹田ダニエルさんが、主にアメリカを軸とした「世界のZ世代と気候変動」について考察します。カルフォルニアで生まれ育ち、現在も在住の竹田さんが感じる、いまのZ世代が持つ意識や価値観とは?
INDEX
ジャーナリスト、研究者
竹田ダニエル
1997年生まれ。カリフォルニア出身・在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』を刊行。そのほかの著書に『#Z世代的価値観』『SNS時代のカルチャー革命』など。現在も多数のメディアで執筆中。
なぜZ世代は気候変動への関心が高いのか
かつて「環境問題」という言葉を聞くと、一部の専門家や活動家によって語られるものかのようなイメージが強かった。しかし、いまや世界中で展開されているその議論の中心にはZ世代がいる。
1990年代後半から2010年代初頭にかけて生まれたZ世代は、気候変動を「他人ごと」ではなく、「自分ごと」としてとらえる最初の世代であると感じる※1。彼らは、なぜ従来の世代よりも、この問題に強い関心を持つようになったのだろうか。
そして、どのようなアプローチで、未来をより良くするための行動を起こしているのだろうか。本稿では、それらの背景を考察することで、Z世代の気候変動への向き合い方をより立体的に見ていきたい。
※1 海外のみならず、日本のZ世代においても気候変動への意識は高まっている(参考記事:2050年カーボンニュートラルの目標宣言から2年。『世代間における気候変動に関する意識調査』を実施。Z世代の63.2%が「気候変動問題」に関心、ミレニアル世代比8ポイント高〈チューリッヒ保険会社〉)
Z世代が育ったのは、スマートフォンやSNSが日常に根ざし、情報がリアルタイムで流れてくる時代。異常気象や大規模な山火事、洪水、干ばつといった世界中の災害のニュースに日常的に触れてきた。だからこそ、気候変動が抽象的な「未来の問題」ではなく、「いま、まさに自分たちの生活に影響を及ぼしている現実の危機」であると直感的に理解している。
実際に被害に遭った人たちがスマートフォンで動画を撮影し、SNSで投稿をすることで、誰もが「ジャーナリズム」に参加し、気候変動の影響を記録・発信することができる。そして、その投稿をリアルタイムで見た世界中の人々も、気候変動をはるか未来の抽象的な出来事としてではなく、自分ごととしてとらえるのだ。
自分たちの未来に責任を持つ。Z世代の価値観や行動の心理
さらにZ世代の多くは「持続可能性」という価値観を、ファッションや食、仕事の選択といった日々の行動と結びつけているのも特徴である。たとえば、ファストファッションに対して懐疑的な気持ちを持ったり、ヴィーガンや植物由来の食品に関心を向けたりする若者は少なくない。
そうした思考・行動は、倫理的な消費という文脈だけでなく、結果的に気候変動対策としても機能しているといえる。自分たちができる範囲の行動から変えることで、自分たちの未来に対して責任を持つことにもつながる。
行動を続けて、活動の輪を広げれば、未来を変えることだってできるかもしれない。そんな希望を抱くため、そして「世界をより良くするための手応え」を感じるための行動でもあるのだ。
また、環境問題に関心を示すZ世代が提唱する気候変動アクティビズム※2は、単なる「温室効果ガスの削減」や「自然保護」にとどまらない。彼らの間で、気候変動が不平等を助長する社会問題であることが明確に認識されつつあるのだ。
たとえば、ハリケーンや洪水の被害は、低所得地域や有色人種のコミュニティに集中するケースがしばしば見受けられる※3。また、地球温暖化の影響で農業が困難になれば、食糧価格が上昇し、経済的に脆弱な環境に置かれている人々が影響を受けやすくなる。そういった情報、事実を目の当たりにしてきたのだ。
気候変動が「誰に、どのような影響を与えるのか」という問いを起点に、「環境正義(environmental justice)」や「気候正義(climate justice)」という枠組みが形成された現代。そうした時代のなかで大人になっていったのが、Z世代である。
※2 気候変動アクティビズム:気候変動への対策や地球温暖化の抑制を目的とした活動や運動
※3
参考事例(一部):ハリケーン・カトリーナの事例(『長周新聞』より)、ハリケーン・フローレンスの事例(『WIRED』より)、ニューヨーク市ブロンクス区の事例(『東京新聞』より)
「声を上げる」ハードルが低くなった。SNSがもたらした意識の変化
このようにZ世代は、気候変動を孤立した環境問題ではなく、人権、ジェンダー、貧困、移民といった複合的な社会課題と結びつけてとらえることが一般的になった世代でもある。Z世代のアクティビズムにおいて特筆すべきは、やはりSNSを駆使した情報発信とコミュニティ形成の巧みさではないだろうか。
InstagramやTikTokでは、「気候危機」についての解説動画や、「一日にできる小さなエコ行動」を紹介する投稿が、あらゆる規模のコンテンツクリエイターによって拡散されている。その動画を転載することで、誰もが身近なところから気候変動に関する情報を発信することができる。
SNS特有のアルゴリズムによって、同じ分野のトピックに関心を持った人たちが、バーチャルな空間でコミュニティを形成することも可能だ。そのような「連帯」が国境やアイデンティティを超えて形成できるようになったことで、Z世代の若者たちの環境問題への問題意識とアクションが世界中へと広まっていったのだ。
また、SNSによって「声を上げる」ハードルが低くなったことで、かつては主流メディアにアクセスできなかった若者やマイノリティの声が可視化されていることも重要な点といえる。
たとえば、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリや、ウガンダのヴァニッサ・ナカテのような若いアクティビストが世界的に注目を浴びたのも、SNSによる発信力と拡散力が若い世代の共感の輪を広げたことは要因のひとつである。
当然、オンラインでのアクションだけでは、「実際にどれだけ社会への変化をもたらしているのか不透明」という批判もある。一方で、オンラインでの認知拡大が、企業の方針転換や政策提言へのプレッシャーとなっている事例も少なくない。SNSを通じたアクティビズムは、手のひらサイズのスマートフォンから世間の「意識の変化」を加速させる重要な触媒であるといわれている。
予測不能な未来とどう向き合う? 重要なのは「日常生活の選択」
Z世代の気候変動への向き合い方には、不安と希望が同居している。環境問題を自分ごととしてとらえている人々のなかには、危機の最前線に立たされながらも、そこから主体的に「未来を再構築する」という自覚を持っている人も多い。
そうした人々は政策提言にとどまらず、日常生活の選択を通じて「持続可能な社会」を実践しているのも特筆すべき点だろう。情報を発信したり、受け取ったりするだけではなく、たとえば、選挙で環境政策を重視する候補を選ぶこと、企業のサステナビリティに関する取組みに目を向けること、身近な会話で気候の話題を自然に出すことも、小さくとも確かな一歩である。
それらを包括的に行うことで、はじめて未来のためのアクションが生まれる。その事実は、気が遠くなるほど壮大であると同時に、「できることから変えられる」というモチベーションにもつながる。
未来は予測不能であるが、Z世代のように「複雑な問題に対して、自分たちが希望の一部でありうる」と信じる姿勢があれば、まだより良い変化の余地はある。その希望を現実にするためには、一人ひとりの行動と想像力が不可欠である。
執筆:竹田ダニエル 編集:吉田真也(CINRA, Inc.)