更新日:2024年2月14日
公開日:2020年8月11日
交通事故の大きな問題のひとつに、相手方が無保険車というケースがあります。
無保険車とは、「自賠責保険には加入しているが任意保険は未加入」の場合と「自賠責保険・任意保険ともに未加入」の場合があります。
それぞれのケースの無保険車との事故についてご説明します。
まずは加害者が任意保険に加入しておらず、自賠責保険だけに入っている場合の交通事故の対処法についてご説明します。
自賠責保険は、基本的な対人賠償を確保することを目的とした保険です。
従って、事故によって負傷したり、死亡したりしたときには、保険金を請求できます。
加害者が任意保険に加入している場合は、任意保険会社が対人賠償保険で自賠責保険部分を含めた一括対応を行ってくれます。
しかし、加害者が任意保険に加入していない場合は、示談交渉がスムーズに進まないケースも少なくありません。
場合によっては、被害者が自分で自賠責保険の請求(被害者請求)を行う必要があります。
また自賠責保険には、限度額が設定されています。限度額を超えた部分に関しては加害者に直接請求することもできますが、応じてもらえないケースもあります。
そのような場合は、被害者が加入する任意保険を使用する方法があります。
運転者や同乗者の損害に備える人身傷害保険や搭乗者傷害保険を付帯している場合は、人的損害について補償を受けることができます。
他に、無保険車傷害補償特約が付帯されている場合は、無保険車との事故で死亡もしくは後遺障害を負った場合でも、補償を受けられます。
物損事故は自賠責保険で補償されないため、加害者に損害額を直接請求することになります。
加害者が応じない場合は裁判に訴えること(訴訟)になります。しかし、訴訟にかかる手間・費用と損害額を比較した場合、裁判をしても割に合わないケースもあります。
このような物損事故の場合でも、被害者が車両保険に入っていれば、自身の車に損害が生じた部分については保険金額を上限として、補償を受けられます。
加害者が自賠責保険にも入っていない場合は、加害者に直接請求をするか、政府保障事業を利用する方法があります。
政府保障事業とは、加害者が自賠責保険に加入していない場合に被害者の請求に応じて、政府(国土交通省)が自賠責保険と同等の基準で補償金を給付する制度です。
政府保障事業には仮渡金制度がないため、治療が終わった後に一括して請求することになります。
また、加害者が自賠責保険のみに加入していた場合と同様に、被害者自身が加入している任意保険を利用することもできるかもしれません。
任意保険の加入率は共済も含めると、およそ90%といわれています。一方、自賠責保険にも入っていない無保険車もわずかですが存在するといわれています。万が一のために、自分の保険内容は充実させておきたいですね。
自賠責保険は、原動機付自転車(原付)を含むすべての自動車に加入が義務づけられている強制保険です。
交通事故による被害者を救済するため、加害者が負うべき経済的負担を補填することで最低限の対人賠償を確保することが目的のため、補償範囲は対人賠償に限られ、補償金額にも限りがあります。
自賠責保険の補償内容と支払い限度額 | |
---|---|
補償内容 | 支払い限度額(被害者1名あたり) |
傷害による損害:治療関係費、文書料、休業損害、慰謝料 | 最高120万円 |
後遺障害による損害:障害の程度に応じた逸失利益、慰謝料など |
①神経系統・精神・胸腹部臓器に著しい障害で
第1級 最高3,000万円〜第14級 最高75万円 |
死亡による損害:葬儀費、逸失利益、被害者および遺族の慰謝料 | 最高3,000万円 |
参照元:国土交通省『自賠責保険ポータルサイト』自賠責保険(共済)の限度額と保障内容
※2024年2月現在
上記の補償範囲を超えた部分については、加害者側が不足分を負担するか、加害者の任意保険でまかなうことができます。
とはいえ自賠責保険にしか入っていない加害者が、充分な資力を持っていない場合もあるかもしれません。
任意保険未加入の無保険車事故の被害者となった場合、何をすべきかを見ていきましょう。
事故の際、加害者が任意保険に入っていない場合、治療費や休業補償を得る方法はあるのでしょうか。
まず被害者が任意保険に加入している場合、任意保険会社に連絡を入れましょう。
そして、「人身傷害保険」や「無保険車傷害補償特約」などの適用可否を確認確認しましょう。
他にも被害者が、加害者の加入している自賠責保険の保険会社に直接請求する方法があります。これを「被害者請求」といいます(自動車損害賠償保障法16条)。
自賠責保険は被害者救済のための制度という趣旨から、被害者の過失割合が7割未満であれば、過失相殺なしで賠償金が支払われます。
また、被害者1人あたりの支払額が決められているため、複数の被害者がいる場合でも、支払金額を分ける(按分)ことにはなりません。
「被害者請求」で保険会社から払い出されたお金は、保険金ではなく「損害賠償金」の扱いとなります。
損害賠償金は、治療費や休業補償など、事故で生じた被害を補填するためのものなので、非課税です。
ただし、自賠責保険は対人賠償のみが補償対象です。物損事故による損害は、補償の対象外ですので注意が必要です。
任意保険では保険会社の「担当者」がつき、示談交渉や保険金支払いの手続きをサポートしてくれます。
しかし、相手の自賠責保険の保険会社に「被害者請求」する場合は、原則として被害者自身が請求手続きを行わなければなりません。
診断書などの医療記録や各種書類、証明書などを被害者自身でそろえる必要があります。
なお、これらの書類をそろえるためにかかった経費の一部は、後で文書料として請求することができます(ただし金額は、必要かつ妥当な実費)。
煩雑な手続きなので、弁護士もしくは司法書士に代行してもらうこともできますが、代行費用が発生します。
それでは、被害者請求に必要な書類を、どこから入手するのかを見てみましょう。
必要な書類 | 入手先・請求方法 |
---|---|
保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書 | 加害者側の自賠責保険会社から取り寄せて、記入します。 |
交通事故証明書(人身事故) | 自動車安全運転センターで取得しますが、郵便局でも取得申請が可能。 |
事故発生状況報告書 | 加害者側の自賠責保険会社から取り寄せて、記入します。 |
医師の診断書または死体検案書(死亡診断書) | 治療を受けた医療機関で、作成してもらいます。 |
診療報酬明細書 | ケガをした場合、治療を受けた医療機関で、発行してもらいます。 |
通院交通費明細書 | ケガをした場合、加害者側の自賠責保険会社から取り寄せて、記入します。 |
付添看護自認書または看護料領収書 | 近親者に付添看護してもらった場合に必要です。 加害者側の自賠責保険会社から取り寄せて、看護してもらった方に書いてもらいます。 看護料領収書は、職業看護人に付き添ってもらった場合に必要です。 |
休業損害証明書(源泉徴収票添付) | 給与所得者に、休業損害が発生した場合に必要です。事業主に依頼します。 |
納税証明書、課税証明書(取得額の記載されたもの)または確定申告書など | 自由業者、自営業者、農林漁業者などに損害が発生した場合に必要です。納税証明書、課税証明書などは税務署または市区町村で取得します。 |
損害賠償額の受領者が請求者本人であることの証明(印鑑証明書) | 被害者本人の印鑑証明書です。被害者が未成年の場合は親権者が請求しますが、その場合は、当該未成年者の住民票または戸籍抄本が必要です。 住民登録をしている市区町村、本籍のある市区町村で取得します。 |
委任状および委任者の印鑑証明 | 弁護士に依頼する場合は、委任状と委任者の印鑑証明書が必要になります。 |
戸籍謄本 | 本籍のある市区町村で取得します。 |
後遺障害診断書 | 後遺障害が残った場合、加害者側の自賠責保険会社から取り寄せて、治療を受けた医療機関で作成してもらいます。 |
レントゲン写真などの検査結果 | 治療を受けた医療機関で借り受けるか、写しをもらいます。 |
自賠責保険では、調査に時間がかかることがあります。
しかし、被害者はすぐに治療費の支払いや、万が一死亡した際の葬儀代などのお金が必要になります。
そのため被害者がまかなうお金を早く受け取れるよう、仮渡金制度があります。
加害者が加入する損害保険会社(組合)に対し、死亡の場合290万円、傷害の場合は程度に応じて5万円、20万円、40万円が請求できます。
政府保障事業には仮渡金制度がないため、治療が終わった後に一括して請求することになります。
なお仮渡金の請求は1回のみで、支払われた金額は自賠責の総額から控除されます。
※2024年2月現在
被害者請求は、3年(傷害:事故発生から3年、後遺障害:症状固定から3年、死亡:死亡してから3年)で時効になります。
請求の権利を失う(自動車損害賠償保障法第19条)ので、注意が必要です。
自賠責保険から支払われる保険金・損害賠償金には限度額があり、治療費や休業補償など実際にかかる費用の全額を補填できない可能性があります。
治療費や休業補償など実際にかかった費用は、直接加害者に請求することも当然可能です。加害者と示談交渉を進める場合もあるでしょう。
示談がまとまらず、損害賠償を求めて裁判に訴える場合は、請求額140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円超の場合は地方裁判所に民事訴訟を提起することになります。
しかし加害者に、支払い能力がない場合もあります。裁判で勝訴しても、実際に賠償金を支払ってもらうことができなければ、裁判をする意味がありません。
弁護士は、相手の支払い能力も勘案して訴訟すべきかどうかを判断しますので、法テラスなどを利用して専門家に相談するのがよいでしょう。
弁護士特約は少額の保険料、あるいは無料で付帯できるので、万が一のときのためにも自動車保険には必ず付帯しておきたいですね。
交通事故の被害にあったら、加害者が加入する保険会社から支払いを受けられるものと思っている方は多いと思います。
ですが、無保険車事故の被害者になってしまったら、自賠責保険による最低限の補償しか受けられません。
このような場合に備えて、ご自身の任意保険について見直してみてください。
※記載の情報は、2024年2月14日時点の内容です。
1965年生まれ。芝浦工業大学工学部機械工学科卒。トヨタ直営販社の営業マン、輸入車専門誌の編集者を経て自動車ジャーナリストとして独立。さまざまな自動車雑誌の他、エンジニア向けのウェブメディアなどに寄稿している。
近著に『電気自動車用パワーユニットの必須知識』(日刊工業新聞社)、『エコカー技術の最前線』(SBクリエイティブ)、『図解カーメカニズム基礎講座パワートレーン編』(日経BP社)がある。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
※本記事の内容は特段の記載がない限り、チューリッヒの保険商品ではなく、一般的な保険商品の説明です。
※チューリッヒの自動車保険に関する内容について
本記事内で紹介しているチューリッヒの自動車保険に関する内容につきましては、ご契約の保険始期および契約条件によって、ご契約のお客さまに適用されない場合がございます。
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