皆さんはクルマを買うとき、なにを重視しますか。いろいろな調査がありますが、価格やデザイン、安全性とともに常に上位に入ってくるのが「燃費」です。燃費のいいクルマに乗れば日々のガソリン代が安くなりますし、エコカー減税も受けられます。また、消費する燃料が減れば二酸化炭素排出量が減り、環境問題にも貢献できます。そう、燃費のいいクルマはお財布に優しいだけでなく、地球にも優しい。エコカーとは本来はエコロジー(環境)に貢献するクルマのことですが、エコロジー、エコノミーの両面でユーザーにメリットを与えるのです。
では、燃費のいいクルマを見つけるにはどうすればいいのでしょう。一般的にはカタログに記載されているリッターあたり○○kmという燃費データ、いわゆるカタログ燃費を参考にする方が多いでしょう。カタログ燃費は、各メーカー間の公平を期すこと、また試験条件の違いによるデータのバラツキを防ぐため、国土交通省の定めた厳密な基準のもとで測定されます。ここでズルをすると、2016年に起こった三菱自動車の燃費偽装事件のような大問題に発展することになります。
現在日本で使われているのはJC08モードと呼ばれる試験方法です。従来の10:15モードでは実燃費との違いが大きすぎる(カタログ燃費値がよくなりすぎる)ということで、2011年に設定された試験方法です。10:15モードではあらかじめエンジンを暖機していたのに対し、JC08モードはエンジンが冷えた状態からも試験をします。また、平均速度や最高速度を引き上げて実際の走行パターンに近づけることで、ユーザーが実際に運転して得られる「実燃費」により近い数値を得られるようになりました。
とはいえ、JC08モードでも、カタログ燃費と実燃費の違いは依然としてかなり大きいのが実情です。たとえばカタログに1リッターあたり20kmと記載されていても、実燃費はまあ7掛けの14km/Lぐらいだろうな、というようにかなり割り引いて考える必要があるということです。とくにハイブリッド車のような超低燃費車の場合、カタログ燃費と実燃費の乖離は大きくなりがちです。素晴らしいカタログ燃費の数値に惹かれてハイブリッド車を購入したものの、実際に走ったらカタログ燃費の半分しかいかなかった、という例もあります。
もちろん、燃費はクルマの使い方や運転方法によって変わってきます。エンジンの始動直後はたくさんの燃料を消費するため、エンジンが十分に暖まる前に停めてしまうような短距離走行が多いと本来の実力とはかけ離れた燃費になりますし、急加速を繰り返すような荒っぽい運転も燃費を悪化させます。渋滞しがちな道路を走ることが多い人と、スムーズに流れている道路を走ることが多い人とでも燃費は大きく変わってきます。また、ディーゼル車は高速走行が得意、ハイブリッド車はゴー&ストップの多い市街地が得意と、クルマによっても燃費のいい状況はさまざまです。従って、「燃費を重視したクルマ選びをしたい」という方には申し訳ないのですが、カタログ燃費はあくまで参考程度にとどめておくべき、というのが現段階でのアドバイスになってしまいます。
とはいえ、燃費性能がこれだけ重視されているなか、ましてや税金を使った補助金であるエコカー減税がカタログ燃費に基づいて適用されることを考えれば、カタログ燃費と実燃費の大幅な乖離は大きな問題です。そこで国もようやく重い腰を上げ、新しい燃費試験方法の導入を決めました。新しい試験方法の名称はWLTC(Worldwide harmonized Light duty driving Test Cycle)。JC08モードと比べると、平均速度と最高速度が大幅に上がり、暖機前スタート比率が上がり、積載重量が増え、走行距離が伸びるなど、より現実の走行モードに近い内容になっているのが特徴です。
10:15モード | JC08モード | WLTCモード |
---|---|---|
1991年に定められた燃費測定方法。実際の使用条件と離れており、カタログ燃費の数値と実燃費の数値の差が大き過ぎる。 | 2011年4月に表示が義務付けられ、2013 年3月以降はJC08モード燃費に統一。実燃費は、全車平均でJC08モード燃費より2割程度低下するといわれている。 | 2018年10月に導入予定。国際基準の試験法となり、3つの走行モードごとの燃費が表示され、比較しやすくなる。 |
日本では2018年10月から適用される予定ですが、実際にJC08モードと比べて燃費データにどんな変化が起こるかを、ひとあし先にWLTCモード燃費を発表したマツダCX-3を例に見ていきましょう。
上記の数値だけを見るとさほど大きな違いはないように感じますが、WLTCではこの他に「市街地モード」、「郊外モード」、「高速道路モード」という3つの走行パターン別燃費が表示されます。
同モデルでのパターンごとの数値は以下のようになります。
JC08モード燃費 | WLTCモード燃費 | 市街地モード
(WLTC-L) |
郊外モード
(WLTC-M) |
高速道路モード(WLTC-H) |
---|---|---|---|---|
17km/L | 16.0km/L | 12.2km/L | 16.8km/L | 18.0km/L |
走行シーンごとの燃費を表示することによって、主に市街地で乗るなら12km/L程度だろうとか、高速道路で遠乗りをすれば18km/L程度いくだろうというように、使い方にあわせた燃費をかなり正確に予測できるようになります。実際にテストをしてみましたが、車載の燃費計では上記に近い数値が出ていることを確認できています。もちろん、前述したように燃費は使用条件や運転のしかたによって大きく変わるので、カタログ通りの燃費が必ず出るわけではありませんが、JC08モードよりは確実に実燃費に近付きますし、条件にバラツキが出にくい渋滞のない高速道路ではカタログ数値にかなり近い値を期待していいでしょう。
WLTCモードの導入は、ユーザーのクルマ選びにも変化をもたらすことになりそうです。なぜなら、従来はあまりあてにならないカタログ燃費でなんとなく選んでいたのに対し、今後は自分の使い方に合った燃費のいいクルマ選びができるようになるからです。
もう一点、興味深いのは、WLTCが国連傘下の「自動車基準調和世界フォーラム」が策定した国際的な基準だということです。これまでの燃費試験は各国が独自に決めていました。好意的に捉えれば、国ごとの実情に合わせたルールとなりますが、それが結果的に実燃費とカタログ燃費の乖離の温床になっていたのです。たとえば日本のメーカーは日本の燃費試験でいい成績が出るようエンジンを調整するため、カタログ燃費はよくなるものの、その分、実燃費との乖離が大きくなってしまう傾向があります。実際、実燃費はほぼ同じなのに輸入車より日本車のカタログ燃費が大幅に優っている例は少なくありません。WLTCの導入によって、燃費で選ぶなら日本車、という常識に変化が起こる可能性もありそうです。
いずれにしても、WLTCモードの導入は、カタログ燃費と実燃費の格差解消と、ユーザーが自分に合ったクルマ選びをしやすくなるという2点において、大いに歓迎すべきことです。
最後に、車を所有されている方は、チューリッヒの自動車保険をご検討ください。
万が一の車の事故・故障・トラブルに備えておくと安心です。
※ 本記事は著者個人の見解・意見によるものです。
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